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産業界
□主な記事□
・経団連中心に率先して取り組み
・業界ごとに節電に工夫
・事例●クルマもコンビニも知恵を絞る
・サンインタビュー●慶應義塾大学教授 井出 秀樹 氏
8月に入り、電力は足りているように見えるものの、定期点検中の原子力の再稼働が見込めず、電力不足が全国規模で深刻化していることに変わりはない。電力会社では老朽火力の再稼動やLNG火力の新増設、電力卸市場や自家発電からの調達など、電力供給力の確保に懸命だ。
一方、電力危機回避に向けた需要側の取り組みも見逃せない。産業界としては、計画停電や大規模停電の発生防止に協力し、復興の基盤となる生産や流通、サービスに及ぶ影響を最小限に食い止めたいところ。
盛夏を迎え、節電努力がまだまだ続く。
東日本大震災を受け、経済界では、日本経済団体連合会の呼び掛けにより「電力対策自主行動計画」を策定し、率先して主体的な取り組みを行ってきた。その効果もあり、7月中の東京電力管内の最大使用電力は、7月15日の4627万kW(供給電力の88.1%)をピークに、60〜80%台で推移した。経団連では、今夏以降の電力供給の正常化が不透明な中で、7月14日に「エネルギー政策に関する第1次提言」を発表し、原子力の早期再稼働や、今後5年程度の電力安定供給の道筋を、早急に示すことを求めている。
■25%減目安に
国が東京・東北電力管内で求めている節電目標は、部門を問わず15%。特に契約電力が500kW以上の大口需要家に対しては、電力使用制限令により、罰則付きで使用電力の削減を義務付けた。これに対し、経済界では自主行動計画を策定して対応している。
同計画に参加しているのは、637社・グループで、318社・グループが製造業だ。
このうち、大口需要家では東電管内の28社・グループと東北電管内の13社・グループが25%以上、東電管内の332社・グループと東北電管内の111社・グループが25%の節電目標を掲げ、契約電力が500kw以下の小口需要家である東電管内の83社・グループと東北電管内の34社・グループは、25%未満の目標を提示した。
国が求めている節電目標に比べて数字が大きいが、これは震災直後に発足した国の電力需給緊急対策本部(現・電力需給に関する検討会合)が、当初、大口需要家に対して最大使用電力量を前年比で25%程度、小口需要家には同20%程度の電力使用量の抑制を求めたためだ。
参加企業のうち大口需要家は、自主行動計画の主な取り組みとして、自家発電の活用、夜間・早朝操業や土日の活用など操業形態の変更、輪番休業と夏季休暇の大型化・分散化、照明・エアコンの調整・エレベーターの間引き運転、使用電力が大きい機器のピーク時からのシフト、蓄電池の活用などを実施しているところだ。
また、これと並行して自家発電設備に関するNOx規制の緩和や自家発電設備の設置に必要な届け出、工業地域での夜間操業による騒音・振動規制の緩和など、節電対策に関連する規制緩和を国と地方自治体に求めている。
こうした節電行動は、今のところ事業活動にそれほど影響を与えてはいないが、一方で自家発電をフル活用していることによる燃料コストの負担増と、化石燃料の使用によるCO2排出量の増加が懸念されるようになっている。
■安定供給を
今夏以降については、電力供給の見通しが示されなければ、節電対策もさることながら、生産計画も設備投資計画も立てられないというのが経済界の見方だ。
そこで、経団連が発表したエネルギー政策に関する第1次提言では、今後5年程度の電力安定供給の道筋を早急に示すことを要請。
緊急対策として、電力安定供給確保に向けた工程表の早急な策定・公表、定期点検終了後に停止したままの原子力発電所の早期稼働、自家発設備や蓄電池の導入支援、今夏の需給対策として実施されている規制緩和の継続などを挙げた。
また2020〜30年に向け、中長期的な視点に立っての安定供給・経済性・環境配慮(3E)の優先順位の見直しと、エネルギーの新たなベストミックスの構築を求め、エネルギーの安定供給や経済性により力点を置いた政策の必要性を訴えている。
このうちエネルギーのベストミックスについては、安全性確保を大前提とした上での原子力の着実な推進や化石燃料の安定調達・供給と高効率利用、再生可能エネルギーの現実的な計画策定、省エネ機器導入など省エネへの積極的な支援の重要性などを提示している。
一方、発送電の分離や電力事業における競争原理のさらなる導入などは、電力の安定供給や経済性に複雑な影響を及ぼすと指摘。
拙速な議論は避け、原子力事業に対する国の関与のあり方とあわせ、地に足のついた議論を行うことを求めている。
□主な記事□
・中小水力開発の現状と課題
・インタビュー●新エネルギー財団(NEF) 常務理事 鳥谷 宗治 氏/東京発電 水力事業部 開発グループマネージャー 瀧沢 雅仁 氏
・中小マイクロ水力の導入事例
・サンインタビュー●東京工業大学名誉教授 藤家 洋一 氏
東日本大震災を受け、再生可能エネルギーに改めて注目が集まるようになっている。
国内の水力資源量の調査によれば、約2700地点で合計約1200万kWが未開発のままだ。
しかし、すでに大規模な地点は開発しつくされているため、その多くが奥地であったり、小規模であったりということで、なかなか開発が難しい面もある。
ただ、水力は純国産エネルギーであり、しかも他の再生可能エネルギーに比べて安定して発電できることや設備利用率が高いこと、さらに耐用年数も長いことから、中小マイクロ規模の水力を着実に開発していくことが必要だ。
国の電力需給緊急対策本部(現・電力需給に関する検討会合)は5月13日、今夏の電力需給対策を発表した。一方、日本経済団体連合会は「電力対策自主行動計画」の策定を会員企業・団体に呼びかけるとともに、効果的な実施方法などをめぐり説明会や情報交換などを行っている。電力需給の逼迫が懸念される中で、国民を挙げての節電への取り組みが求められるようになっている。
●中小水力
一般的に水力を出力規模で分類すると、10万kW以上を大水力、1万〜10万kWを中水力、1千〜1万kWを小水力、100〜1千kWをミニ水力、100kW以下をマイクロ水力と呼んでいる。
なお、国の補助金の関係で3万kW以下を中小水力と呼ぶ場合もあり、1千kW以下のものは法律で新エネルギーに分類されている。
国の水力資源量の調査(包蔵水力調査)によれば、09年3月時点の一般水力の開発可能地点は2713地点で、1213万kW。
そのほとんどが規模と場所の面から、採算が合う形で開発を進めるのは難しいとされているものの、一方で98〜08年にかけて、電力会社を中心に約67万kWの中小水力が開発された。
これは、中小水力を対象とした国の開発費補助金制度を活用したり、国や地方自治体による多目的ダムの建設に合わせて発電設備を設置したりすることで、開発が可能になったものだ。
逆に、こうした仕組みや方法があれば、中小水力を開発していくことができるということを示している。
●マイクロ水力
一方、震災もあって特に注目されるようになっているのが、河川維持用水(河川維持流量)や農業・工業用水、上下水道など、未利用落差を利用したミニ・マイクロ水力である。
こうした水力のポテンシャルについては、包蔵水力調査とは別に、未利用落差に関する国の調査が行われ、09年3月時点で1389地点、34万kWが未開発のままとなっている。
河川維持流量とは、河川環境を維持するため、ダムから一定量を放水することが河川法で義務付けられているもので、それを利用して発電を行うわけだ。
また上下水道を利用する場合、飲み水や下水処理前の水を使うのではなく、上水では処理する前に川から引き込んだ水を、下水では処理後、河川に放流する前の水を使う。
ここで発電した電力は出力が小さいことから、基本的に自家用として使われるケースが多い。上下水道場では、ポンプを稼働させるなどのためにかなりの電力を消費することから、特に震災後の電力供給不足の中で、その重要性が再認識されている。
これらの地点の開発主体となっているのは、地方自治体や土地改良組合、NPO、地元企業などだ。
それほど大きな発電電力量は得られないものの、電気の地産地消やエネルギー教育、さらには上述の自家発電の機能面などで、開発が期待されるようになっている。
●全量買取制度
これまで着実に開発が進められてきた中小水力であるが、今年度が転換点になりそうだ。
従来は発電所を建設する際、事業者は中小水力発電開発費補助金制度など、また地方公共団体などは、地域新エネルギー等導入促進事業などにより、建設費の補助を受けてきた。
しかし、再生可能エネルギーの全量買取制度が導入されることになったため、これらの補助事業の新規公募は昨年度で終了した。
このため今後、中小水力の開発を検討しているところでは、全量買取制度の詳細設計の行方を注目している状況だ。
●許認可手続き
中小水力の開発を進める上で、従来から指摘されてきた課題がある。
それは、河川法・自然公園法・森林法のそれぞれに関する許認可手続きの簡素化だ。
これらの手続きに手間と時間を要することが、中小水力の導入拡大を抑制することになるとの指摘が、新エネルギー財団(NEF)などによりなされている。
なお電気事業法に関しても同様の指摘があったものの、昨年度までに国により見直しが行われ、課題はクリアされてきている。
NEFによれば、河川法・自然公園法に関しては、小規模の水力の場合で周辺環境に及ぼす影響が極めて小さいものであるならば、調査内容を簡素化すること、既設ダムなどの未利用落差による発電には、大幅に手続きを簡略化すること‐などが必要だとしている。
また森林法に関しては、保安林解除の手続きに対し、柔軟な対応と可能な限りの手続きの簡素化・迅速化を求めている。
□主な記事□
・国の電力需給対策と産業界の対応
・電力中央研究所 上席研究員 杉山大志氏に聞く
・「東大と見える化システム開発」シムックス社長 中島高英氏
・「福島の全国立地点への影響」開発計画研究所長 石井政雄氏
東日本大震災の影響により、全国的に今夏の電力供給不足が懸念されるようになっている。
地震で多くの発電所が被災した東京電力・東北電力、菅直人首相の要請により浜岡原子力発電所のすべての原子炉を停止した中部電力のみならず、原子力発電所を持つ他の電力会社でも、現時点では福島第一原子力発電所事故の影響で、定期点検を行っている原子力発電所の再起動が見込めないからだ。
この状況を乗り切るため、各電力会社では長期停止火力の運転を再開するなど供給力の確保に努める一方、国は企業や消費者に対し、節電を呼び掛けている。
国の電力需給緊急対策本部(現・電力需給に関する検討会合)は5月13日、今夏の電力需給対策を発表した。一方、日本経済団体連合会は「電力対策自主行動計画」の策定を会員企業・団体に呼びかけるとともに、効果的な実施方法などをめぐり説明会や情報交換などを行っている。電力需給の逼迫が懸念される中で、国民を挙げての節電への取り組みが求められるようになっている。
■対策の方針
国の電力需給対策では、国民生活と復興の基盤である産業への影響を最小限にすること、被災地へ最大限配慮、将来につながる取り組みであること‐などを基本的な視点として対策をまとめた。
将来につながる取り組みとは、エネルギー安定供給の確保と環境負荷低減に貢献する再生可能エネルギー・省エネルギー対策の強化や、ライフスタイルの変革につながる休業・休暇の分散化・長期化などだ。
その上で、需給対策の基本的な枠組みとして、ピーク期間・時間帯の抑制幅を提示し、計画停電をセーフティネットと位置付けた。また今夏以降の需給対策も併せて進めるとしている。
今夏の供給力については、東京電力から東北電力に最大限の融通を行い、東電で5380万kW(7月末)、東北電で1370万kW(8月末)との見通しを示し、最低限必要な需要抑制率を東電で10・3%、東北電で7・4%とした。
■大口需要家
これに対する需要抑制の目標として、東京・東北電力管内で、部門を問わず需要抑制率の目標を一律に15%と設定した。
具体的な対策としては、契約電力が500kWの大口需要家は計画を策定して実施。国は需要家の自主的な取り組みを尊重しつつも、実効性・公平性を担保する補完措置として、電気事業法第27条を活用できるように準備を進める。
同法の施行令によれば、電気の供給不足が国民生活や経済に悪影響を及ぼすと認められる場合、経済産業相が大口需要家に対し、強制的に電気の使用を制限できることになっている。
実際の運用にあたっては、東電管内で7月1日〜9月22日、東北電管内では7月1日〜9月9日の、いずれも平日の午前9時から午後8時までの間に、昨年の同期間・時間帯の最大使用電力量の15%を削減した数値を、使用電力の上限とする方針だ。
また抜本的な需要抑制対策を実施できるよう、独占禁止法の運用の明確化、自家発電施設の定期検査の弾力化、自家発電設備に関する煤煙排出基準の規制など、関係する規制制度の見直しを行うことにしている。
■小口と家庭
500kW未満の小口需要家についても、具体的な抑制目標と事業形態に適合した自主的な計画を策定し、公表することを求めている。
国は、その取り組みを促すため「節電行動計画の標準フォーマット」を作成し、これを使って節電取組の具体例や効果などについて需要家に知らせる。
また関係省庁や業界団体、自治体などを通じて情報提供を行い、主だった小口需要家に対しては、個別訪問などを通じて協力を依頼するほか、説明会などを開催。契約電力の引下げも呼びかける。
家庭に対しては、国が節電方法を「家庭の節電対策メニュー」としてまとめ、パンフレット・新聞・テレビ・インターネットなど様々な媒体を通じて知らせる。
また小中学校の授業や夏休みの課題で「節電」を取り上げるなど、小中学校における節電教育を行う。
■今夏以降
今夏以降の電力需給対策としては、火力発電所の復旧・立ち上げ、緊急設置電源の新設、自家用発電設備の活用に取り組むとともに、火力の増設を前倒しして供給力を増やす。
また電力融通を強化するため、既設の周波数変換所(FC)の容量を増やす一方、FCの大幅な増強を含め、全国規模で地域間連系設備などを拡充。分散型電源と、太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入を進める。
需要面では、スマートメーターの導入などにより、エネルギー利用の最適化を図る。また節電を促す制度的手法の導入を検討するとともに、節電に貢献する機器設備の導入促進など省エネを一層進める。
■産業界
産業界の対応としては、日本経済団体連合会が「電力対策自主行動計画」の策定を会員企業・団体に呼びかけている。
大口需要家の最大使用電力の削減、関連のある小口需要家への節電計画の策定・公表・実施の呼び掛けと支援、自家発電設備の活用による電力会社への電力供給の増加‐などを柱として計画を作成し、可能な限りホームページに掲載することとしている。
経団連によれば、4月28日現在、637社・グループが計画を策定した。
業界団体も節電対策を進めており、日本自動車工業会は、生産活動に影響を与えることなく、計画停電の実施を回避し、ピーク電力の需要抑制を図る手段として、休日を土・日から木・金へシフトすることを決定した。
また日本鉄鋼連盟は、節電だけでなく、震災により停止している発電設備の早期復旧、設備容量に余力がある発電設備の増出力運転、自家発電・共同火力・IPPの最大出力を維持するための、副生ガスなどの燃料の安定的・優先的供給など、電力会社への電力供給の増加に寄与する対策も打ち出している。
東京電力 福島第一
東京電力は5月17日、福島第一原子力発電所事故の収束に向けた工程表の見直しを発表した。1カ月前に発表した工程表では、冷温停止状態に向けた主要な対策として、原子炉の格納容器を水で満たす冠水作業を行うことになっていたが、1、2号機で格納容器からの冷却水が漏れていることが判明したことから、冠水作業に先立ち、建屋内に滞留している汚染水(滞留水)を処理して原子炉注水に利用する「循環注水冷却」を行うことにした。
目標達成時期は変更せず、「放射線量が着実に減少傾向となっている」ステップ1を7月中旬、「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」ステップ2を、ステップ1終了後、3〜6カ月程度で達成する予定。
取り組みについては、前回は「冷却」「抑制」「除染・モニタリング」の3分野と、「原子炉」「燃料プール」「滞留水」「大気・土壌」「測定・低減・公表」の5課題に分けて設定していた。
見直しでは、「余震対策等」「環境改善」の2分野と、「地下水」「津波・補強・他」「生活・職場環境」の3課題を追加し、5分野・8課題に再整理。これにより、課題への対策数は63から76に増えた。
最も大きな変更点は冷温停止への対策で、1号機の原子炉建屋に作業員が入ってデータと建屋内の状況を確認したところ、2号機同様、1号機でも格納容器から冷却水が漏れていたことが分かり、3号機でもその可能性があることから、増え続ける滞留水を浄化し、原子炉の冷却水として使うことにした。
その滞留水については、新たに地下水の汚染拡大の防止が課題となったことから、「サブドレン保管管理」「地下水の遮蔽工法」などの対策を追加している。
新たな課題として設定した余震・津波対策では、仮設防潮堤の設置を明記。4号機に加え、各号基の燃料プールの補強工事も検討する。
また夏に向けた作業員の環境改善として、仮設寮の整備や利用できる生活用水量の増加、現場休憩施設の増設などの追加策を実施する。
インタビュー
□主な記事□
・インタビュー●衆議院議員 自由民主党エネルギー政策合同会議委員長 甘利明氏「金融危機回避へ 冷静に判断」/日本エネルギー経済研究所理事 戦略・産業ユニット国際戦略・石油・電力総括 小山堅氏「原子力停止で巨額のコスト」/東京都市大学大学院工学研究科 共同原子力専攻主任教授 吉田正氏「50年先見据え技術の維持を」
・東京電力●福島第一収束へ工程表策定
・菅首相が浜岡原子力停止を要請
・東京電力●高濃度汚染水の移送開始
津波により電源を喪失したことで過酷事故を起こした東京電力・福島第一原子力発電所では、冷温停止に向けた懸命な取り組みが続いている。
一方、今回の事故により生じた発電所周辺の住民への損害について、東電と国がどのような形で賠償を支払うべきかが課題となっている。
福島第一の事故はまた、日本のエネルギー政策のみならず、世界のエネルギー情勢にも影響を与えている。
賠償問題をどう処理していくべきか。今後、日本や世界のエネルギー情勢はどう変化していくのか。さらに原子力発電はどうなっていくのか。識者に聞いた。
東京電力
東京電力は4月17日、福島第一原子力発電所事故の収束に向けた工程表を発表した。「放射線量が着実に減少傾向となっている」状態をステップ1、「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」ことをステップ2とする二つの目標を設定。ステップ1の目標達成時期の目安を3カ月程度、ステップ2を3〜6カ月程度と見込んで63項目の対策を実施していく。
工程表では、当面の取り組みを「冷却」「抑制」「モニタリング・除去」の3分野に分類。
「原子力の冷却」「使用済み燃料プールの冷却」など、五つの課題ごとにステップ1とステップ2で目標を設定し、対策を示した。
ステップ1の達成に向けては、特に@1〜3号機の原子炉格納容器内で水素爆発を起こさないことA2号機で放射線レベルの高い汚染水を敷地外に放出しないこと‐を重要課題と設定している。
●冷却
3分野のうち、冷却については原子炉と使用済み燃料プールの冷却を課題として挙げた。
まず4月16日現在(1)1〜3号機の燃料ペレットの一部は損傷しているが、注水により冷却できている(2)1〜3号機で高温により格納容器に生じた隙間から、放射性物質を含む微量の蒸気が漏洩している可能性が大きい(3)2号機の漏水が多く、格納容器が損傷している可能性が大きい(4)複数の外部電源確保と、バックアップ電源(電源車・非常用発電機)を配備(5)1・3・4号機は外部から、2号機は通常の冷却ラインから淡水を注水中(6)プールからの放射性物質放出の有無を確認中(7)プールを支える建屋の壁が損傷‐との現状を示した。
これに対しステップ1では、安定的な冷却と、2号機の格納容器が密閉できるまで滞留水の増加を抑制しながらの冷却を目標として設定。
その対策として、1・3号機で燃料域上部まで格納容器を水で満たすことや、窒素充填による水素爆発の防止の継続、原子炉の熱交換機能の回復などを、2号機については、損傷個所の密閉策の検討・実施の継続などを挙げた。
またステップ2では、冷温停止状態にすることを目標として、必要に応じてステップ1での対策を維持・強化するほか、プールの水位が維持され、より安定的に冷却可能とするため、熱交換機の設置による冷却と、コンクリートポンプ車(キリン)などの遠隔操作範囲を拡大することとしている。
さらに中期的課題として、塩分による原子炉や配管などの構造材の腐食による破損・目詰まり・水漏れの防止と、5・6号機を含めた燃料の取り出しを挙げた。
●抑制
抑制に関しては「放射性物質で汚染された水(滞留水)」の閉じ込め、保管・処理・再利用」と「大気・土壌での放射性物質の抑制」を課題として設定した。
その現状については(1)2号機の原子炉内が発生源とされる、放射線レベルの高い汚染水の流出が停止(2)2号機タービン建屋や立杭・トレンチに放射線レベルの高い水が流出・滞留(3)放射線レベルが低い水の保管量が増加(4)建屋周りの地下水(サブドレン水)が汚染されている可能性大(5)建屋外に瓦礫が散乱し、放射性物質が飛散している‐との認識を提示。
これに対するステップ1の目標として、放射線レベルが高い水を敷地外に流出しないよう、十分な保管場所を確保することと、放射線レベルが低い水を保管・処理すること、建屋・敷地にある放射性物質の飛散を防止することを挙げた。
また、その対策として、集中廃棄物建屋などを保管先に活用することや水処理施設の設置、高レベル汚染水の除染・塩分処理後タンクに保管、タンク・バージ船・メガフロートなどによる保管容量の拡充、敷地と建屋への飛散防止材の塗布・散布の拡充による作業環境の改善、換気・フィルターの付いた原子炉建屋カバーの設置‐などを行うこととしている。
一方、ステップ2では、汚染水の全体量の減少と、建屋全体を覆う応急措置を実施することを目指し、高レベル汚染水向けタンクなどの拡充や除染、原子炉建屋カバーの設置完了、コンクリートなどにより屋根・外壁を設置する本格的措置の詳細設計に着手する。
さらに中期的には、本格的な水処理施設の設置と本格措置として建屋全体を覆うこと、汚染土壌の固化・置換・洗浄を課題として挙げている。
緊急インタビュー
□主な記事□
・インタビュー●早稲田大学理工学術院特任教授 岡芳明氏「原子力の役割 変わらず重要」/国際エネルギーアナリスト 日本エネルギー経済研究所参与 政治博士 松井賢一氏「今世紀の課題 克服していく」/科学ジャーナリスト 中村政雄氏「リスクめぐり議論が始まる」
・福島第一原子力発電所事故の経緯
・エネルギー設備に大きな被害―業界挙げて復旧へ
・電力各社が津波対策強化
3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、東北地方の三陸海岸を中心に未曽有の被害をもたらした。
マグニチュード9.0という国内最大規模、世界でも4番目となる巨大地震に伴って発生した大津波により、海に面した市町村では多くの人の命が失われ、今も行方不明の人が多数いる。また助かった人達も避難所生活を余儀なくされている。
同時に、この大地震は東京電力の福島第一原子力発電所に壊滅的な被害を与え、同社創立以来、初めてとなる計画停電を実施した。
今回の福島第一原子力の被災をどう見たらいいのか。専門家に聞いた。
東京電力・福島第一原子力発電所は、3月11日の東北地方太平洋地震により定期検査中の4〜6号機を除く1〜3号機が自動停止した。1〜3号機は、津波で外部電源と非常用電源が失われたことにより冷却機能を喪失。3・4号機は使用済み燃料の貯蔵プールの水位が低下して燃料棒の冷却機能が損なわれた。国は同日、初の原子力緊急事態宣言を発令し、管直人首相を本部長とする原子力災害対策本部を設置した。一方、この地震により福島第一と同様、自動停止した東電の福島第二原子力発電所1〜4号機と東北電力の女川原子力発電所1〜3号機は、福島第二で冷却機能に支障が出たものの、現在は安定して停止している。
■冷却機能
地震発生とともに、東京電力・福島第一原子力発電所では、運転中の1〜3号機の原子炉が自動停止した。
通常であれば「冷やす・閉じ込める」という安全機能を確保するための電源として、外部(送電線)か、非常用ディーゼル発電機から電気が供給され、緊急冷却装置(ECCS)などが起動して、原子炉に水を供給する。
しかし、今回の震災では津波により非常用電源が失われてしまったことからECCSが作動せず、原子炉内の温度が上昇。これにより蒸気が発生し、原子炉格納容器の圧力が上昇した。
国は11日午後7時3分、原子力災害対策特別措置法に基づき緊急事態宣言を発令し、同発電所から半径3km以内の住民に避難指示を出した。
12日朝には避難指示対象を半径10kmに拡大。1号機では原子炉格納容器内の圧力を下げるため、容器内の空気を外部に放出する作業を行い、同日午後3時半ごろに敷地の境界で放射線量の制限値である1時間当たり500μSv(マイクロシーベルト)を上回る1015μSvが観測された。
■水素爆発
その直後に1号機で建屋内にたまった水素が爆発し、建屋が損壊した。
水素が発生したのは、冷却水の水位低下で燃料棒が水中から露出し、温度が上昇して燃料が溶け出す「炉心溶融」が起きて、燃料を覆うジルコニウムの温度も上昇、これが水蒸気と化学反応したためだ。
これを受けて福島第一の避難範囲を半径20kmに拡大。1号機では原子炉圧力容器内に海水の注入を開始した。
原子力安全・保安院は同日夜、同発電所の事故に関する暫定評価を発表し、国際尺度INESでレベル4と暫定評価した。INESは事故の大きさを8段階で示すもので、レベル4は99年の茨城県東海村のJCO臨界事故と同レベルである。
13日には3号機も格納容器内の圧力が高まったため、容器内の蒸気を放出するとともに、海水を注入。3号機も14日に水蒸気爆発を起こし、建屋が損壊した。
■温度上昇
2号機では、原子炉の蒸気を駆動源にしてポンプを回し、原子炉の水位確保と炉心の冷却を行っていたが、14日に水位が低下して燃料棒が長時間露出し、炉心溶融が起きた可能性がある。
さらに15日には原子炉格納容器の下部にあり、容器内の圧力が上昇した場合、蒸気を導いて冷却することで圧力を低下させる圧力抑制室(サプレッション・ルーム)が損傷。これにより、放射性物質が漏れ出たと見られている。
一方、定期点検のため停止していた4〜6号機のうち、4号機で15日に出火。使用済み燃料貯蔵プールの冷却装置にトラブルが発生した可能性があり、プールの温度が上昇した。
■電源復旧
こうした一連の冷却機能の喪失に対し、自衛隊や東京消防庁の消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)などが、消防車や特殊な放水車などを使って給水作業を実施。
一方、東電は電源復旧作業を開始し、21日に5号機への外部電源からの電力供給が再開され、原子炉と貯蔵プールの本格的な冷却が始まった。
その後、22日までに全号機への外部電源が復旧。淡水注入作業も始まっている。
なお、1〜3号機に関しては、保安院が18日にINESでレベル5とする暫定評価を発表した。海外の事故では旧ソ連のチェルノブイリ事故がレベル7、米国のスリーマイルアイランド事故がレベル5に評価されている。
東電では福島第一・第二に加え、広野火力や常陸那珂火力などが運転を停止して電力の需要に見合った供給が行えなくなることから、14日から関東圏で地域を分けて順番に停電を行う計画停電を開始した。
東北電力でも電力需給の状況により計画停電を行う予定だ。
一方、両社に対して他の電力会社から周波数変換施設を介して電力融通が行われている。
ただし、西日本からの電力の周波数を変換する三つの施設の容量は、合計で100万kWが上限であるため、電力不足は長期に及ぶ見込みだ。
□主な記事□
・スマートグリッドへの期待
・スマートグリッドの実現へ―横浜市の取り組み
・NEDO●海外で共同実証事業
・世界初のメタンハイドレート海洋産出試験へ
3月25日は「電気記念日」。1878年(明治11年)のこの日、東京・虎ノ門にあった工部大学校(東京大学工学部の前身)で、日本最初の電気が灯された。
その後、電気は私達の暮らしに欠かせないものとなったが、再生可能エネルギーが大量に導入されつつある中で、電気の需給のあり方に変化が求められるようになっている。
そのカギとなる技術がスマートグリッドだ。スマートグリッドとはどのようなものなのか。今後、日本ではどのような形のスマートグリッドを構築していくべきなのか。電気記念日を機にスマートグリッドに注目した。
スマートグリッドは国や地域の事情に合わせてオーダーメードされるものであるため、世界共通の定義が確立されているわけではない。ただ、経済産業省の「一般的には、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入拡大や、電気自動車(EV)の普及・家庭の電化の進展といった電力の需給両面での変化に対応するため、情報通信技術(ICT)を活用して効率的に需給バランスを取り、電力の安定供給を実現する次世代型の電力送配電網を指す」というのが、誰もがひとまず納得する見方と言えるだろう。それを国や地域、業界、企業などがそれぞれの事情に従って解釈し、あるべき姿を示しているというのが実状だ。
●定義と技術
国や地域で異なるとは言え、スマートグリッドを定義付けようという動きはある。
例えば、電気に関連する各国の規格・標準を調整する国際電気標準会議(IEC)は「双方向のICTを用いた、センサーと分散的処理機能を兼ね備えた需要家と電力市場関係者も巻き込んだ電力ネットワーク」とすることで検討中だ。
その場合、個別技術として「ネットワーク自動化」「電力品質管理」「分散型電源管理」「需要レスポンス」「スマートメータリング」「予防保全」「停電管理」「電力貯蔵設備管理」が挙げられている。
ただ前述のように、このすべての技術を含む唯一のスマートグリッドがあるわけではない。
また日本では、スマートグリッドが注目される以前から、各電力会社により、すでにある程度実現したり、取り組みが進められたりしているものもある。
ネットワーク自動化については、配電系統では配電自動化システムの導入について世界的にも先行しているが、今後の再生可能エネルギーの大量導入も見据え、さらなる高度化が検討されている。
また送電系統では、各種安定化装置の導入など、世界的にも先進的技術が導入済みだ。
あるいは、供給側が需要側の消費量を制御する需要レスポンスは、時間帯別料金を設定することで、間接的な形で実施している。
電力品質管理や停電時間短縮については世界最高水準を達成しており、電力貯蔵技術に関しても、周波数安定性向上にも寄与する可変速機を始めとする揚水発電などで対応しており、NAS電池やリチウムイオン電池に関する技術も開発している。
●欧米の事情
それでは外国はどうなのだろうか。米国の場合、約3千もの電力会社がある上に、州ごとに電力規制の枠組みが異なっていることなどから、電源や送電線などの電力供給インフラの整備が進んでいない。
そのため、高需要期に需要家の電力使用量を抑制するなどにより、インフラ不足を補う「ピークカット」が必要で、そのためにスマートグリッドを構築しようとしているのである。
一方、欧州では大規模風力をはじめとする再生可能エネルギーなどの分散型電源の導入が進んだ結果、06年の欧州大停電でも、一部関係者から指摘されたように、電力供給システムへの悪影響が生じるようになっている。
すなわち、風況の良い地域に偏在している大規模風力の変動する電力を、国を超えてネットワーク化されている送電系統で流通させているため、制御することが難しくなっているのだ。
そこで、分散型電源の出力状態を把握・予測したり、分散型電源の抑制をしたりすることが求められるようになっており、それを実現する技術としてもスマートグリッドが期待されているのである。
こうした欧米の事情に対し、日本では電力分野のインフラ投資は不足していないこと、住宅用太陽光発電(PV)が再生可能エネルギーの主体となっていることから、自ずと目指すところが異なるわけだ。
さらに、欧米では送電ネットワークが各国・各州をまたいで複雑な網の目状に形成されていることから、予測困難な分散型電源による電気の流れの調整が難しい状況であるが、日本はシンプルな串型構成であるため、電気の流れの監視・制御が容易といった違いもある。
●日本の方向性
日本が目指すスマートグリッドの形として、経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム協議会」では、短期的には再生可能エネルギーが大量導入されても、現在の電力システムの安定的な供給と、品質の確保を維持できるような、より強靭なシステムとしている。
また中長期的には、こうした電力ネットワークと、余ったPVの電力をEVや蓄電池に充電し雨の日に使うといった電力の「地産地消」が併存・両立し、相互補完関係を構築するシステム全体と考えている。
その場合、需要サイドでは、例えば住宅ではPVなどの再生可能エネルギーが大量導入され、この電力を有効に利用することが可能になる。
ホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)が人の動きを感知してLED照明の点灯や、使わない家電の電源を切って無駄な待機電力をカット。PVが発電できる時に洗濯機を自動的に動かし、余った電気についてはヒートポンプなどで湯を沸かし、給湯に利用する。
またスマートメーターにより電力消費量や電気料金、CO2排出量などの情報を提供する。
一方、ビルは建築物・設備の省エネ性能の向上や、再生可能エネルギーの活用などによって、年間のエネルギー消費量がゼロになる「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」(ZEB)になる。
ZEBでは、昼間は自然光を最大限活用し、人の行動を感知することで照度を調整。スマートグリッド対応のビルディング・エネルギー・マネジメントシステム(BEMS)により、電気と建物のエネルギー消費の大半を占める熱の利用を最適化させる。
自動車については、プラグインハイブリッド車やEVを移動手段として使うだけでなく、蓄電池を、再生可能エネルギーによる電力の短期変動幅や需給ギャップをコントロールするために使用する。
さらに地域レベルでは、朝晩の需要の大きい家庭と、昼間の需要の大きいオフィスビルとを組み合わせることで、一層効率的にエネルギーを利用するようになる。
□主な記事□
・求められる次世代エネルギー・社会システムの構築
・インタビュー●東京大学 特任教授 荻本和彦氏
・スマートエネルギーネットワークの実現へ―東京ガスの取り組み
・東京電力●東通原子力1号機が着工
地球温暖化防止に向け、日本の環境・エネルギー技術は国際社会に対して大きな強みとなっており、時代はこれまで個々に積み上げてきた新エネ・省エネ技術がシステム化されていく、「スマートエネルギー社会」建設へと向かいつつある。
海外では中国の都市開発への協力、米国への技術協力などの動きが活発化の気配を見せる一方、国内では横浜市など自治体が検討を加速させ、東京ガス千住テクノステーションでスマートエネルギーネットワークの実証実験が進むなど、新たな潮流が生まれつつある。
省エネ月間にちなみ、スマートエネルギー社会の方向性を探ることにした。
スマートエネルギー社会を実現するために必要なのが「次世代エネルギー・社会システム」の構築だ。経済産業省は09年11月から「次世代エネルギー・社会システム協議会」を立ち上げ同システムのあり方について検討を重ね、昨年1月に中間とりまとめを策定。全国4カ所での大規模な実証事業も開始されている。
●スマートグリッド
次世代エネルギー・社会システムとは、再生可能エネルギーや未利用熱エネルギーなどを有効活用する「スマートエネルギーネットワーク」と、地域の交通社会システムや都市計画、消費者行動などを複合的に組み合わせたシステムのことだ。
このシステムを構築する上で、まず求められるのが、出力が不安定な再生可能エネルギーを大量導入しても、送配電網に影響を与えないための「スマートグリッド」の構築である。
スマートグリッドについては、きちんと定義があるわけではなく、すでに日本で実現している停電時間の少ない高品質の電力を供給するネットワークを、スマートグリッドと呼んでいる国もある。
経産省の中間とりまとめで考えているのは「再生可能エネルギーが大量導入されても安定供給を実現する強靭な電力ネットワークと、地産地消モデルの相互補完」だ。
強靭なネットワークとは電力の供給サイドに関するもので、情報通信技術を活用した蓄電池の制御、再生可能エネルギーの出力抑制・解列、蓄電池と調整電源である火力・水力発電との協調制御などを最適に組み合わせた送配電ネットワークのこと。一方、地産地消モデルとは、需要サイドで地域単位のエネルギーマネジメントを行うものだ。
●次世代エネルギー・社会システム
次世代エネルギー・社会システムを構築するには、電力だけでなく、最終エネルギー消費の5割を占めている熱の有効利用なども図らなければならない。
そこで電気に熱、再生可能エネルギー、廃熱・大気熱などの未利用エネルギーを組み合わせた、総合的なエネルギーネットワークを考える必要がある。それがスマートエネルギーネットワークだ。
さらに、地域で真にエネルギーの有効利用を図ろうとすれば、必然的に地域の交通システムや都市計画まで踏み込んで考えなければならなくなる。
したがって、最終的には社会システムとして全体が最適化されるような仕組みが必要であり、それが次世代・エネルギー社会システムということである。
●需要サイドの姿
同システムが実現した場合、需要サイドはどのような姿になるのだろうか。
例えば住宅では、ホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)が人の動きを感知してLED照明を稼働したり、情報通信技術を使って、太陽光発電(PV)が盛んな日には家電機器を稼働させたり、余ったエネルギーを電気自動車(EV)や蓄電池に充電して、雨の日に利用したりする。
またスマートメーターにより電力消費量や電気料金、CO2排出量などの情報を提供する。
一方、ビルは建築物・設備の省エネ性能の向上や、再生可能エネルギーの活用などによって、年間のエネルギー消費量がゼロになる「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」(ZEB)になる。
ZEBでは、昼間は自然光を最大限活用し、人の行動を感知することで照度を調整。スマートグリッド対応のビルディング・エネルギー・マネジメント・システム(BEMS)により、電気と建物のエネルギー消費の大半を占める熱の利用を最適化させる。
自動車については、プラグインハイブリッド車(PHV)やEVを移動手段として使うだけでなく、蓄電池を、再生可能エネルギーによる電力の短期変動幅や需給ギャップをコントロールするために使用する。
さらに地域レベルでは、朝晩の需要の大きい家庭と、昼間の需要の大きいオフィスビルとを組み合わせることで、一層効率的にエネルギーを利用する。
●国際展開
こうした国内での取り組みとともに考えなければならないのが、国際展開だ。
なぜなら資源・エネルギーと環境制約が21世紀の国際的な課題であることを踏まえると、こうした次世代エネルギー・社会システムの構築は、諸外国でも求められるようになるからである。
その際、重要なのは、利益の薄い機器単体で販売するのではなく、付加価値の高いプロジェクトマネジメントやオペレーション、補修などのメンテナンスを含んだシステムとして販売することだ。
そこで、こうした状況に対応するための体制整備や、日本企業に有利な形で国際標準化を進めていくなど、国際展開をにらんだ取り組みを、オールジャパンで行うことが求められるようになっている。
新春インタビュー
□主な記事□
・新春インタビュー●東京大学名誉教授 前物質・材料研究機構理事長 岸輝雄氏/日本原子力産業協会理事長 原子力国際協力センター理事長 服部拓也氏/作家 島根県立大学名誉教授 豊田有恒氏
・経済産業省●11年度予算案を発表
・関西電力●タイでマングローブ植林・エタノール化技術開発へ
・中部電力●静岡市とメガソーラー建設・運用で協力協定
昨年10月に開催された日越首脳会談で、ベトナムの原子力発電所2基の建設を日本が行うことで合意した。
今後、世界的に原子力の需要が拡大していく中で、長年にわたって原子力の安全運転に努めてきた日本の役割が重要になるとともに、こうした取り組みは日本の産業の競争力強化にもつながっていくことになるだろう。
一方、中国のレアアース禁輸問題に見られるように、エネルギー資源を含めた資源獲得競争は今後、ますます激化していくことが見込まれている。こうした動きに対し、日本はどう対応していくべきか。各界の識者に聞いた。
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