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注:掲載は一部です。また、役職等は掲載当時
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□主な記事□
・エネルギーの面的利用の形態と効果
・インタビュー●芝浦工業大学 教授 村上公哉氏/日本熱供給事業協会 広報部長 若杉勇氏
・エネルギーアドバンスの取り組み
・Jパワー●ポーランドで風力発電所が運開
京都議定書目標達成計画では、エネルギー起源のCO2対策の基本的考え方として「面的な広がりを持った視点からエネルギー供給構造を捉え直し、我が国のエネルギー供給構造そのものを省CO2型に変えていく」ことの必要性が示されている。エネルギーの面的利用には、大規模に地域熱供給を行う「熱供給事業型」、中小規模の「集中プラント型」「建物間融通型」があり、現状で普及しているのは熱供給事業型、すなわち地域冷暖房だ。
地域冷暖房については個別熱源に比べ約10%の、未利用エネルギーを活用すれば20%程度の省エネ効果が得られることが示されており、ヒートアイランド対策や大気汚染防止などへの貢献も期待できることから、その利用促進が求められている。
エネルギーの面的利用とは、個々の建物ではなく、複数の建物でエネルギーを効率的に利用することだ。これにより、省エネルギーに貢献するだけでなく、都市機能を向上させ、環境保全を実現するといったメリットもある。都市活動に由来するCO2排出量は日本の総排出量の約2分の1を占めているとされていることから、京都議定書の目標を達成する上でもエネルギーの面的利用は重要だ。
●三つの型
エネルギーの面的利用は大きく「熱供給事業型」「集中プラント型」「建物間融通型」の三つに分けられる。
熱供給事業型はいわゆる地域冷暖房で、ヒートポンプやコージェネレーション、ボイラーなどを熱源とする大規模エネルギープラントから、複数の需要家に蒸気・温水・冷水などを導管(配管)を通じて供給するものだ。
熱供給事業法により成立要件が定められており、(1)水を人為的に加熱または冷却し営利を目的に供給(2)一般の需要に応じる(3)二つ以上の建物に供給(4)熱供給施設の加熱能力が21GJ/時以上―に該当するものが日本では熱供給事業とされている。
集中プラント型は熱供給事業型と同じようにプラントからエネルギー供給を行うが、規模が小さいものや、同一の敷地内で特定の需要家に供給するものだ。
建物間融通型は、近隣する建物の小規模の熱源を導管でつなぎ、エネルギーを融通あるいは共同利用をするタイプだ。
熱供給事業型が法律に基づいて供給規定が定められているのに対し、集中プラント型は供給者と需要家の間の契約に従って、建物融通型は建物所有者同士の相互契約に基づいて供給が行われるという違いもある。
ただし、現在、日本で行われているエネルギーの面的利用のほとんどは熱供給事業型で、特に建物融通型はほとんど実施例がないのが現状である。
●効果
東京ガスの子会社で、日本最大の熱供給事業者であるエネルギーアドバンスによれば、地域冷暖房のメリットは(1)変動が大きく平均負荷率の低い建築物の年間熱負荷に対し、効率よく運転できるシステムが構築できること(2)熟練したオペレーターによる無駄のない効率的なシステムの運転が可能なこと(3)熱源を集約しているため、未利用エネルギーや都市排熱の活用が比較的容易であること―などだ。
こうしたことから省エネ効果があるとされていたが、個別建物のエネルギー利用の実態が把握できなかったため、これまでどの程度の省エネになっているか具体的な数値が示されることはなかった。
しかし、個別建物にもBEMS(エネルギー管理システム)が入るようになったことで個別建物との比較が可能になり、資源エネルギー庁が今年3月にまとめた報告書によれば、地域冷暖房の平均的な省エネ率は、実測値で個別熱源に比べて9.9%、未利用エネルギーを活用している場合は20.6%であることが分かった。
さらに97年度以降に竣工した新しいシステムになると、未利用エネルギーを使わなくても、個別熱源に対し14.2%の省エネ率になることが明らかになっている。
また省エネ以外にもシステムの特性によって、地域冷暖房には様々な効果が見込まれている。
例えば社会的効果としては、冷房廃熱を集約化することによるヒートアイランド対策、適切な排ガス処理でNOx・SOxを削減することによる大気汚染防止といった都市環境への貢献が期待できる。
あるいは、都市機能の充実という観点では、蓄熱槽水の活用や非常用電源としての使用により都市防災機能を、個別建物の屋上に熱源設備を設置しないことにより都市景観を向上させることにもなる。
一方、エネルギーアドバンスによると、地域冷暖房から熱供給を受ける側のメリットとしては、通年24時間熱の利用が可能になり利便性が向上することや、ボイラーなどの熱源機器が不要になり建物の安全性が向上すること、熱源スペースの縮小により建物の有効率が向上すること―などがあるという。
●高効率化
熱源機の高効率化によりシステムの効率も向上しているが、地域冷暖房では蓄熱システムやコージェネを採用すること、排熱・廃棄物・温度差などの未利用エネルギーを活用することで、省エネ性を一層向上させることができる。
蓄熱システムは夜間の安価な電力を利用して蓄熱槽に熱をため、昼間の熱供給に活用するもので、プラント内の熱源設備を高負荷で運転することが可能になり、コージェネは発電した電気を供給するとともに、排熱が活用できる。
未利用エネルギーのうち、排熱については工場・変電所・地下鉄などから放出される熱を、廃棄物ではごみなどの廃棄物を燃やす際に発生する熱を利用する。
温度差は、海水・河川水・下水・地下水などの水温と気温の差をヒートポンプで熱として汲み上げるものだが、これは、水温が外気温に比べ冬暖かく夏冷たい上に、年間を通じて温度が安定しているという性質を利用している。
いずれも全国に様々な事例があるが、蓄熱を利用している地域冷暖房の一例を挙げれば、東京の「晴海アイランド地区」が有名だ。
約1万9千立方メートルの大型蓄熱槽と高効率の冷凍機・ヒートポンプを組み合わせることで、消費エネルギーを約44%削減という国内トップレベルの省エネ性を実現している。
未利用エネルギーを利用している地域冷暖房としては、温度差と排熱の二つを活用している大阪の「中之島三丁目地区」のような例もある。
熱源は水熱源スクリューヒートポンプ・水冷式電動ターボ冷凍機・大規模蓄熱槽で構成し、熱源水・冷却水として堂島川(旧淀川)の水を全面活用するとともに、変電所の排熱を利用することなどにより、高い省エネ性を実現している。
□主な記事□
・電気エネルギー利用の現状と課題
・車とインフラへの取り組み●トヨタ/三菱自動車/東電
・「コージェネレーションシンポジウム2008」開催
・国内CO2排出量取引制度の試行実施を開始
資源エネルギー庁が今年5月に発表した06年度エネルギー需給実績によれば、運輸部門の最終エネルギー消費は90年度に比べ16.6%増加した。燃費の向上や輸送の合理化などにより、前年度に比べれば1.1%減少しているものの、京都議定書で示された目標数値の達成やエネルギーの効率的利用、環境負荷の一層の低減などを図るためには、クリーンエネルギー自動車の開発・普及が必要だ。
クリーンエネルギー車の中でも、すでに実用化され普及が拡大しているハイブリッド車、開発が急ピッチで進められているプラグインハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車など、電気エネルギーを活用する車が世界的に注目されており、車の走行に電気エネルギーの活用が不可欠になりつつある。
電気エネルギーを活用するクリーンエネルギー自動車には、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車がある。ハイブリッド車以外は、航続距離すなわち1回の充填・充電による走行距離が短いことや価格が割高であること、インフラが整備されていないなどの課題があるが、市販化に向けて急ピッチで開発が進められている。
■ハイブリッド車
ハイブリッド車の国内の普及台数は07年度で約44万7千台。クリーンエネルギー自動車全体の9割近くを占めている。
ハイブリッドとは、異なるものを混ぜ合わせることを意味し、ハイブリッド車は、エンジン・燃料電池・モーターなど二つ以上の動力源を組み合わせた自動車のことである。
状況に応じて動力源を変えることで燃費を向上させるとともに排出ガスを低減できるのが特長で、現在、普及が進んでいるのは、エンジンとモーターを組み合わせたものだ。
ハイブリッドシステムには「シリーズ(直列)」「パラレル(並列)」「スプリット(またはシリーズ・パラレル、分割)」の三つの方式がある。
シリーズ方式はエンジンで発電機を回し、その電力でモーターを回転して走行。パラレル方式ではエンジンで車輪を駆動するとともに発電機を回してモーターでも車輪を動かすが、モーターはあくまで補助動力で、これらの方式はいずれもエネルギーの利用効率があまり高くないという問題がある。
これに対し、スプリット(シリーズ・パラレル)方式は、シリーズとパラレルの長所を生かすため、エンジンの動力を動力分割機構で分割し、一方は直接車輪を、もう一方は発電機を回してモーターでも車輪を駆動させる仕組みだ。
その割合を自在に制御できるため、モーターの使用比率がパラレル方式に比べて多くなり、エネルギーの利用効率が向上する。トヨタのプリウスが採用しているのはこの方式である。
■スプリット方式
スプリット(シリーズ・パラレル)方式では、発進時と低中速走行時のように、エンジン効率の悪い領域ではモーターのみで走行し、通常の走行時はエンジンの動力の分割を効率が最大になるように制御する。
減速時や制動時には、車輪がモーターを回し、モーターを発動機として使って制動エネルギーを電力に変えバッテリーに蓄える。これを「回生ブレーキ」と言い、これも効率を向上させる要因だ。
環境意識の向上や原油高を背景に、ハイブリッド車はプリウスを中心に普及が進んでいるが、さらなる普及拡大には、モーターやバッテリーなどで一層の小型・軽量化、低コスト化を図り、価格を低減することが必要である。
■プラグインハイブリッド車
ハイブリッド車のバッテリーに家庭用電源から電力を充電できるようにしたものがプラグインハイブリッド車だ。
現行のハイブリッド車に比べモーターによる走行距離が延びるため、町中など近距離を走る際は、エンジンを使わずに電気自動車として走ることが可能になる。
そのため、CO2の排出削減、化石燃料の消費抑制、大気汚染防止、深夜電力の使用による燃料代の低減などが期待できる。
現在、実用化に向けた開発が行われており、トヨタのプラグインハイブリッド車が07年7月、公道走行が可能になる初の国土交通大臣認定を受けて実証試験を行っているが、普及拡大にはやはりバッテリー性能などの向上が課題となる。
■電気自動車
電気自動車の歴史は古く、自動車が開発された当初からあったが、動力性能や航続距離が短いことから普及しなかった。
またオイルショックや米国における大気汚染防止規制の強化の際、各社が開発を進めたが、電池性能や価格、インフラ整備がネックとなり、やはり普及には至らなかった。
しかし、地球温暖化問題がクローズアップされる中で、走行中に排出ガスが出さない上、「Well to Wheel」(一次エネルギーの採掘から車両走行による消費まで)のCO2排出量で見ても、ハイブリッド車や燃料電池車に比べ最も少ないことから脚光を浴び、再び開発が進められるようになっている。
日本のメーカー各社とも取り組みを始めており、三菱自動車は軽自動車「i」をベースに開発した「i MiEV(アイミーブ)」の来年の市販化に向け、電力7社や自治体などと実証走行試験を開始した。
富士重工も軽自動車「R1」をベースにした「R1e」の共同開発を東京電力と進めてきたが、来年、4人乗りの軽自動車「ステラ」をベースにした電気自動車を販売する計画で、日産自動車も10年度の市場投入を発表している。
現在、ハイブリッド車とプラグインハイブリッド車ではニッケル水素電池を使っているのに対し、これらの電気自動車ではリチウムイオン電池が使われているが、価格や安定性などで課題があり、本格普及には電池性能の向上や急速充電スタンドの拡充が不可欠だ。
■燃料電池車
燃料電池にはリン酸型や固体酸化物型、溶融炭酸塩型など、いろいろな種類があるが、燃料電池車に使われるのは作動温度が低く、小型・軽量化が可能な固体高分子型である。
燃料電池は酸素と水素を化学反応させることにより電気と水を発生させる。燃料電池車では、燃料電池で発生させた電気を蓄電池に貯め、それをモーターに供給して車を走行させる。
走行中に排出するのは水ぐらいで、電気自動車同様、大気汚染物質などを排出しないのが特長だ。
燃料電池車については、世界に先駆けて02年12月にトヨタの「FCHV」と本田技研工業の「FCX」が日本政府にリース販売を行った。
その後、ホンダは普及への課題とされていた低温始動性能と航続距離について、マイナス30度での低温始動を可能にするとともに、航続距離を620キロに向上させた新型燃料電池車「FCXクラリティ」を開発。米国で7月から、日本では11月からリース販売を開始し、3年間で200台程度を販売する予定だ。
トヨタもマイナス30度での低温始動・走行と航続距離を830キロにまで向上させた新型燃料電池車「FCHV―adv」を開発し、9月1日に環境省へリース販売を行った。
燃料電池車についても、価格や蓄電池の性能向上、水素ステーションの整備などが普及の課題となっている。
蓄電池
自動車の電気エネルギー利用の拡大において鍵となるのがバッテリー(蓄電池)性能の向上だ。
長い歴史を持ち、現在でもガソリン車などで使われている鉛蓄電池は容積が大きく重いことなどから、モバイル機器用にニッカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などが開発された。
中でも現在、脚光を浴びているリチウムイオン電池は、他の電池に比べエネルギー密度が高いことから小型・軽量化が可能で、電圧もニッケル水素電池などの約3倍という特長がある。
また、ニッカド電池やニッケル水素電池のように、容量を残した状態で充電をすると容量が減少してしまう「メモリー効果」が、リチウムイオン電池にはないというメリットもある。
このため自動車用としても注目され、トヨタ自動車はパナソニックと、三菱自動車はジーエス・ユアサ コーポレーションと量産化に向け合弁会社を立ち上げるなど、自動車メーカー各社は電機メーカーと共同で開発を行うようになっている。
その一方で、リチウムイオン電池には、利用の仕方によって異常発熱や発火の恐れがあるという短所があり、現在は電池単体ではなく、安全機構を内蔵した「電池パック」として販売されているが、利用を拡大していくには安全性を高めることが必要だ。また一層の性能の向上やコストの低減も課題となっている。
このため、経済産業省は06年8月に「次世代自動車用電池の将来に向けた提言」を取りまとめ、エネルギー密度を現在の70ワット時/キログラムを15年に1.5倍に、30年には7倍に向上させる開発目標を掲げた。
コストについても、現在の20万円/キロワット時を10年には半額に、15年には7分の1、30年には40分の1とする目標を提示。こうしたことにより本格的な電気自動車の量産化を目指すとしている。
原子力の日 記念号
□主な記事□
・原子力発電の現状と研究開発
・インタビュー●原子力委員会 委員長代理 田中俊一氏
・次のステップへの取り組み●原子力機構/NUMO
・電力中央研究所●第27回エネルギー未来技術フォーラム開催
10月26日は原子力の日。1963年のこの日、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の動力試験炉が、日本で初めて原子力による発電に成功、これにちなんで64年に設けられた。
原子力は地球温暖化防止やエネルギー安全保障の観点から世界的に再評価されるようになっている。日本でも新・国家エネルギー戦略などで、核(原子)燃料サイクルや放射性廃棄物対策の着実な推進、次世代型軽水炉の開発、高速増殖炉の実用化、核融合エネルギー技術の研究開発などへの取り組みが示されており、今や運転中の軽水炉を着実に稼働させるとともに、技術開発や環境整備の面で一歩先へ進むことが求められるようになっていると言えるだろう。
現在、日本では17の発電所で55基の原子炉が運転中だ。合計出力は4946万7千キロワットに上り、電力供給の3割を占めている。これらの原子炉の建て替えが2030年頃から必要になるため、それに合わせて開発しようとしているのが次世代型軽水炉だ。さらに高速増殖炉(FBR)や核融合炉など、将来を見据えた技術開発も進められている。
●BWRとPWR
日本で使われている原子炉にはBWR(沸騰水型)とPWR(加圧水型)の2種類の軽水炉がある。
軽水炉とは、核分裂後に放出される中性子の速度を下げる減速材や、核分裂の際に放出される熱を取り出す冷却材に軽水(普通の水)を使う原子炉のこと。
BWRが原子炉で発生する熱で蒸気を発生させ、直接タービン・発電機を回転させるのに対し、PWRでは原子炉で作った高温の水(一次冷却水)により、蒸気発生器の水(二次冷却水)を沸騰させてタービン・発電機を回転させる。
このため、PWRでは放射能を一次冷却系に閉じ込めることができ、放射能を帯びた蒸気を使うBWRのように関係するすべての設備を遮蔽する必要がない、というメリットがある一方、BWRに比べて仕組みが複雑で、保守・改修の手間がかかるといったデメリットがある。
●建設計画
BWRは日本原電のほか、東北・東京・中部・北陸・中国の各電力会社で使われており、さらにBWRを改良して出力を増加させたABWRを東京・中部・北陸の各電力が使用。PWRは日本原電と北海道・関西・四国・九州の各電力が採用している。
現在、建設中のものとしては北海道電力・泊発電所3号機、中国電力・島根原子力発電所3号機、Jパワー(電源開発)・大間原子力発電所1号機がある。
泊3号機(PWR、91万2千キロワット)は03年11月に着工し、09年12月に営業運転を開始、島根3号機(ABWR、137万3千キロワット)は05年12月に着工し、11年12月に運開、大間1号機(フルMOX―ABWR、138万3千キロワット)は今年の5月27日に着工し、12年3月に運開する予定だ。
また計画中のものとしては、中国電力・上関原子力発電所1・2号機や東京電力東通原子力発電所1・2号機など10基あり、合計出力は1356万2千キロワットになる。
●次世代軽水炉
すでに運転中の原子炉については、2030年頃から建て替えが必要になってくる。そこで、国・電気事業者・メーカーが一体となって進めているのが次世代軽水炉の開発だ。
具体的には、世界初の濃縮度5%超燃料を用いた原子炉系の開発による使用済燃料の大幅削減と世界最高の稼働率の実現、免震技術の採用による立地条件によらない標準化プラントの実現など、六つの開発項目を基盤的技術として設定した上で、170万〜180万キロワット級(80〜100万キロワット級も視野)のBWRとPWRを1基ずつ開発する。
基本設計を完了するまでの期間を今年度から8年間とし、来年度までの2年間は概念設計の検討と要素技術開発を進め、10年度上期までにその成果と進捗状況などを評価して、同年度以降の開発計画への反映・見直しを判断することになっている。
●高速増殖炉
原子力の推進には燃料であるウランの確保が重要だが、世界的な原子力回帰によりウラン確保に向けた動きが活発化していることから、将来のウラン資源の供給不安が懸念されるようになっている。
そこで求められているのが、ウランを有効活用するための原子(核)燃料サイクルの確立であり、さらに発電により使用した以上の燃料を生み出すことが出来るFBRの開発である。
原子燃料サイクルは、再処理工場で使用済燃料から回収ウランとプルトニウムを取り出し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料として再利用するものだ。
MOX燃料は、各電力会社の軽水炉で通常のウラン燃料とともに使用される(プルサーマル)ほか、Jパワーの大間原子力発電所で使われることになっている。
再処理工場は原子燃料サイクルの要となる施設であるが、これまで日本は、主に英仏両国に再処理を依託してきた。そこで、国内での原子燃料サイクルの確立が求められているわけだ。
現在、日本原燃の再処理工場が竣工に向けて試運転中であり、MOX燃料加工工場の建設も計画されている。
FBRについては、日本原子力研究開発機構(原子力機構)が中止になって実用化に向けた研究開発を行っている。
現在はナトリウム漏洩事故により長期停止している原型炉「もんじゅ」の再稼働に向け、各種試験を行っているところで、来年2月に運転を再開する予定だ。
軽水炉もFBRも核分裂を利用した発電技術だが、さらに将来を見通した技術として核融合を利用した発電技術の開発も進められている。
それが国際熱核融合炉(ITER)計画である。同計画には日本・EU・ロシア・米国・韓国・中国・インドが参加して、核融合実現の見通しを得るための研究が行われる。
●地層処分
核分裂を利用した発電技術を利用する上で避けて通れない問題が高レベル放射性廃棄物の地層処分である。
日本ですでに発生した使用済燃料がガラス固化体に換算して07年末で約2万1300本あり、20年ごろまでに約4万本になると見込まれている。
高レベル放射性廃棄物の処分について、日本では原子力発電環境整備機構(NUMO)が実施主体となって進められている。
一方、欧米諸国でも取り組みが進められており、最も進んでいるフィンランドでは最終処分地をオルキルオトに決め、2020年の操業開始に向け、地下特性調査施設(パイロットプラント)の建設と並行して調査・研究が行われているところだ。
またスウェーデンでは現在、2カ所で調査を行っており、そのうち1カ所を候補地として選定することになっている。
現在使われている原子力発電は、燃料のウランの核分裂によるエネルギーを利用して蒸気を発生させ、それによりタービン・発電機を回して発電を行うものだ。
ウランには核分裂を起こしやすい「ウラン235」と、起こしにくい「ウラン238」があるが、天然ウランにはウラン235は0.7%しか含まれていない。
このため、原子力発電の燃料にはウラン235を3〜5%に濃縮したものを使用している。
ちなみに、原子爆弾はウラン235を100%まで濃縮し、一気に核分裂を起こさせることで爆発するようになっているのが、原子力発電と大きく異なるところだ。
軽水炉の原子炉は、主に「燃料」「制御棒」「減速材」「冷却水」「緊急炉心冷却装置」で構成されている。
燃料のウランは高温で焼き固められ小さな「ペレット」に加工した後、ジルコニウム合金で作られた細長い燃料被覆管に詰めて「燃料棒」とし、これを束ねて「燃料集合体」とする。
これに中性子を当てると、核分裂が起こると同時に新たに2〜3個の中性子が発生し、別のウランに当たって核分裂を起こさせる。
原子炉内ではこうした反応がゆっくりと連続的に行われるが、そのためには中性子の数とスピードをコントロールする必要がある。そこで使われるのが「制御棒」と「減速材」で、制御棒は数を減速材はスピードを制御する。
核分裂により発生した熱エネルギーは「冷却水」で炉外に取り出し、発電に使われる。
「緊急炉心冷却装置」は、原子炉内の冷却水が大量に失われる事態が生じた時、作動する装置。原子炉の中に大量の水を入れたり、燃料棒に水をかけたりして、燃料棒の熱による破損を防ぐ。
東京電力
□主な記事□
・火力発電の種類とCC発電の変遷
・インタビュー●東京電力 火力部長 佐野敏弘氏
・全軸運開に向け建設進む4号系列
・インタビュー●東京電力 富津火力発電所長兼建設所長 石田昌幸氏
東京電力・富津火力発電所4号系列の初軸となる第1軸が、7月29日に営業運転を開始した。
4号系列は最新技術の採用によってLHV(低位発熱量基準)で59%という世界最高効率を実現しており、従来型のLNG(液化天然ガス)火力に比べ、燃料使用量とCO2排出の25%低減を達成している。
同発電所の1〜4号系列は、コンバインドサイクル(CC)発電の技術開発の歴史そのままに熱効率を向上させてきた経緯があり、タービン入口温度が1100度C級から1500度C級まで揃っているのは世界でもここだけだ。4号系列1軸の運開を機に、富津火力に即してCC発電技術の変遷に改めて注目するとともに火力発電の今後を探った。
火力発電には大きく分けて、汽力・ガスタービン・コンバインドサイクル(Combined Cycle=CC)の三つの発電方式がある。それぞれ特長を生かして使われているが、効率という点で、最も良いのはLNGを燃料とするCC発電方式であり、その中でも富津火力4号系列で使用しているCC発電を改良したMACC(More Advanced CC)は、現時点で世界最高効率を達成している火力設備だ。
●従来火力
3種類の発電方式のうち汽力発電方式は、ボイラーで燃料を燃やして高温・高圧の蒸気を発生させ、それで蒸気タービンと発電機を回して発電する仕組みである。火力発電の初期から使われ、現在でも石炭・石油・LNG火力で使用している。
汽力発電の特徴は、様々な物質が含まれている燃焼ガスで直接タービンを回すのではなく、蒸気に変えてから発電することだ。
そのため、石炭・石油・LNGのほか、アスファルトのような超重質油も燃料として使用できるうえ、木質バイオマスを石炭と混焼させる、といったことも可能だ。
ガスタービン発電方式は汽力発電方式と異なり、燃焼ガスを直接、タービンに吹き付けて回転させる。このため、LNGのようなクリーンなガス燃料か、灯油や軽油のような不純物の比較的少ない液体燃料しか使うことが出来ない。
ボイラーがないシンプルな構造であることや、建設期間が短いことなどから、建設コストが相対的に安い。
しかし、高温の排ガスを利用せずに排出してしまうため効率が低く、日本では発電事業用としてはほとんど使われておらず、その替わりに使われているのが効率の良いCC発電方式である。
●CC発電
CC発電方式は、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたもので、主に空気圧縮機・燃焼器・ガスタービン・排熱回収ボイラー・蒸気タービン・発電機で構成されている。
燃料のLNGを、圧縮して高温・高圧にした空気と混合した上で燃焼器で燃焼させ、その高温高圧の燃焼ガスでガスタービンを回す。次に、その排ガスを排熱回収ボイラーに導き、発生させた蒸気を使って蒸気タービンでも発電を行うことで、効率を向上させる仕組みだ。
燃料にLNGを使っていることや高効率であることから硫黄酸化物(SOx)の排出がなく、CO2、窒素酸化物(NOx)の排出が少ないこと、プラント総出力に占める蒸気タービンの割合が約3分の1と少ないため、海に放出する温排水が少ないという特徴がある。
また効率が良いということは、燃料の使用量削減にもつながっている。
これまでCC発電設備は比較的小規模なプラントを組み合わせて造られてきた。富津火力の場合、1・2号系列は各々1軸16万5千キロワットが7軸、3号系列は38万キロワットが4軸で構成されている。
このような小規模なプラントは、起動停止が他の発電設備に比べ短時間で行えることから、電力需要の変化に迅速に対応することができる。
一方、4号系列については大容量化を進め、1軸50万7千`hが3軸で構成されており、7月29日に運転を開始した1軸に続き、現在、残りの2軸が建設中だ。
4号系列も起動停止は短時間に行えるが、高効率で容量が大きいことから、4号系列を基本に発電を行い、需要変動には1・2号系列、場合によっては3号系列で対応するという運用が考えられる。
●入口温度
効率向上のカギとなっていのが入口温度だ。CC発電におけるガスタービンの入口温度は、当初は約1100度C級だったが、その後、約1300度C級にまで向上させたACC(Advanced CC)発電が開発され、現在では約1500度C級にまで向上させたMACC(More Advanced CC)が登場している。
富津火力発電所では1・2号系列でCC発電、3号系列でACC発電、7月29日に一部が営業運転を開始した4号系列でMACC発電を採用している。
このように一つの発電所にCC発電からMACC発電まであるのは、富津火力だけだ。
入口温度を高くすると、熱エネルギーの質が高くなり、有効に利用できるエネルギーが大きくなるため効率が向上する。水力発電における水の落差同様、燃焼ガスの温度と、大気や海水など周囲の環境の温度差が大きいほど、有効なエネルギーが大きく、より多くの電力が取り出せるのである。
ただし、そのためにはタービンの羽根を始めとする機器・部品をより高温に耐えられるようにすることや、燃焼器やタービンの羽根を冷却する技術の開発などが必要である。
また、燃焼器出口の燃焼ガス温度が同じでも、そこに至る燃焼過程で局部的に高温域があるとNOx生成量が急増するため、その対策も不可欠だ。
こうした課題を解決するため、例えばNOxの低減に関しては、東電はACC発電を採用するにあたり、あらかじめ空気と燃料を混合して燃焼させることで、局部的な高温域の発生を抑制して低NOx化を図る、低NOx型の予混合燃焼器をGE社と共同開発して導入している。
この結果、ACC発電ではCC発電の約47%(LHV)に対し、約54〜55%(同)の熱効率を実現。さらにこうした技術を改良することにより、MACCでは約59%(同)まで熱効率が向上した。
□主な記事□
・対談●エネルギー消費の現状と対策
・インタビュー●日建設計 設備計画室長 丹羽勝巳氏/資源エネルギー庁 省エネルギー対策課長 坂本敏幸氏
・省エネへの取り組み●ローソン/日本生命丸の内ビル
・「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定
洞爺湖サミットに先立って開催されたエネルギー大臣会合で、国別に省エネ目標と行動計画を策定することや、国際省エネパートナーシップを設立することが合意されるなど、省エネへの推進が世界的に求められるようになっている。
日本はオイルショックを機に省エネに取り組み、今や省エネに関しては、世界をリードする立場にあると言えるが、その一方で産業部門のエネルギー消費がほぼ横ばい、運輸部門も増加傾向が頭打ちなのに対し、民生(家庭・業務)部門では伸び続けているのが現状だ。
このため、民生部門の対策が急がれており、5月に成立した改正省エネ法でもこの分野の対策が中心になっている。民生部門を中心に省エネの現状や対策などに注目した。
オイルショックを機に「エネルギーの安定供給の確保」を旗印に進められてきた省エネであるが、地球温暖化問題がクローズアップされる中で、現在ではCO2排出抑制のための重要な手段としても位置付けられるようになっている。日本はこれまで世界に先駆けて省エネに取り組んできたものの、特に民生(家庭・業務)部門でエネルギー消費が増加していることから、この分野を中心に一層の省エネの推進が求められている。
資源エネルギー庁の「エネルギー白書2008」によると、GDP当たりのエネルギー消費量は、日本を1とすると、EU27カ国や米国で2程度、中国やインド、ロシアでは8〜17にもなり、日本が世界第2位の経済大国であることを考えると、いかに日本のエネルギー利用効率が高いかが分かる。
ただ、オイルショック以降、産業部門のエネルギー消費がほぼ横ばいで推移する一方、民生・運輸部門はほぼ倍増しており、京都議定書のCO2排出削減目標の基準年である90年度から06年度までのエネルギー消費の伸び率を見ても、産業部門が1.0なのに対し、民生部門1.4倍、運輸部門1.2倍と、特に民生部門の増加が著しいのが現状だ。
同議定書で日本は、基準年に比べ第1約束期間(08〜12年)にCO2の排出を6%削減することを約束しているが、エネルギー消費が増えることはCO2排出増加にもつながることから、目標達成のためにも省エネの推進が不可欠になっているわけだ。
■各部門の現状
三つの部門のうちエネルギー消費が最も伸びている民生部門は、06年度の最終エネルギー消費全体の32%を占めている。その内訳は、家庭部門(自家用車などの運輸関係を除く)が42%、業務部門が58%だ。
家庭部門のエネルギー消費は、73年度を100とすると、06年度は213.1となり、第一次オイルショック当時に比べて2倍以上のエネルギーを消費していることになる。これは、家電製品の大型化や多様化、生活様式の変化、一世帯あたりの家電導入数の増加などによるものだ。
一方、業務部門のエネルギー消費は、65年度から73年度にかけて高度経済成長を背景に年率15%増という、すさまじい伸びを示したが、オイルショックを機に省エネが進み、その後、ほぼ横ばいで推移していた。しかし、80年代後半から再び増加傾向が強くなり、90年度から06年度までの16年間には年率2.4%増の伸びとなった。
これは事務所や小売店などの延べ床面積が増加したことと、それに伴う空調・照明設備の増加、オフィスのOA化の進展などによるもので、かつてはホテルと事務所・ビルがエネルギー消費の多くを占めていたが、現在は事務所・ビルが最も大きなシェアを占め、次いで卸・小売り業となっっている。
運輸部門のエネルギー需要の大半は乗用車であり、個人の所有する車の大型化が進むとともに、所有台数も増えたため、エネルギー消費が伸びてきたが、最近この傾向に変化が見られるようになっている。
運輸部門の増加傾向が頭打ちになり、減少に転じているのだ。これは小型車の需要が大きくなってきたことと、99年に導入された2010年度を目標年度とするトップランナー基準(燃費)が、05年に前倒しで達成されたなど、新車の燃費の改善が想定より早く進んだからだ。
さらに、05年度の省エネ法改正において、輸送事業者、荷主に対する規制を導入していることから、5月に改正された省エネ法では民生部門の対策が中心になった。
■対策
まず民生部門のうち業務部門の対策の大きな柱の一つが、これまで一定規模以上の大規模な事業所にエネルギー管理を義務付けていたのに対し、改正省エネ法では事業者(企業)単位でのエネルギー管理義務を導入したことだ。
またフランチャイズチェーンについても、一事業者として考え、加盟店のエネルギー消費を合計して一定量以上であれば規制対象になるという形にした。
これにより、コンビニエンスストアやファーストフード店、居酒屋チェーンなども省エネ対策を講じなければならなくなった。
この結果、これまで省エネ法ではエネルギー消費量ベースで見れば、業務部門の1割程度しか対象になっていなかったものが、5割ぐらいまでカバーできる見通しだ。ちなみに産業部門については、すでにエネルギー消費ベースで9割をカバーしている。
一方、改正省エネ法では法律を運用する際の柔軟な措置も盛り込まれた。例えば産業部門では、これまでは個々の工場ごとにエネルギー消費を毎年1%改善することを目標に取り組みを求めてきたが、加えて、事業者の省エネの取り組みの状況を客観的に評価する指標として「セクター別ベンチマーク」を導入し、総合的に評価することとされた。
また「共同省エネルギー事業」として、一つのコンビナートで廃熱を融通し合うなど、異なる事業者間での省エネの取り組みを評価したり、大企業が取引先の中小企業の省エネを支援する際、それを大企業の省エネ対策として認めたりする仕組みも設けられている。
業務部門の対策のもう一つの大きな柱が住宅・建築物の規制強化だ。これまでは2千平方メートル以上の建築物を造る事業者に対して省エネの取り組みに関する届け出を義務付けていたが、今回の改正では、2千平方メートル未満の建築物についても、一定の中小規模以上のものについては、届け出の対象に追加することになった。
具体的な規模については今後、審議会で決めることになっている。
また家庭部門の対策として、年間13万戸が建設される建売戸建て住宅に対しても、省エネ性能を規定する住宅トップランナー基準が導入されることになった。
なぜ建売かと言えば、注文住宅と異なり、建売住宅では省エネ性をどの程度にするかを決めるのはハウスメーカーであり、個人に義務を課すよりも、ハウスメーカーに規制を適用する方が現実的であるためだ。
これら一連の省エネ対策の強化によって業務部門で300万トン、住宅建築物で200万トン、そのほかトップランナー基準などで500万トン、合計1千万トンのCO2の追加削減を見込んでいるが、これは3月末に策定された京都議定書目標達成計画の見直しにおける、CO2の追加削減目標の内訳でもある。
□主な記事□
・対談●筑波大学大学院 教授 内山洋司氏/東京電力 執行役員 片倉百樹氏
・各分野で進む電化―東京電力の取り組み
・新エネ部会が緊急提言まとめる
・洞爺湖サミット●長期目標共有で合意
洞爺湖サミットで地球温暖化防止が主要なテーマとなるなど、今や温室効果ガスの排出削減は世界中の国にとって緊急の課題となっている。その中で、日本のように省エネが進んでいる国が、今まで以上にCO2排出を減らすには、技術を活用することが不可欠だ。
その一つが電化である。高効率の電気式ヒートポンプやIH、電気自動車などの電化機器と、非化石燃料による発電をミックスさせたCO2排出の少ない電力の相乗効果により、CO2排出の大幅削減に貢献できるわけだ。
これまでどちらかと言えば家庭用のイメージが強かった電化だが、最近では優れた電化製品が開発されたことで、業務や産業分野でも電化が図られるようになっている。
□主な記事□
・世界をリードし続けるための課題と展望
・インタビュー●太陽光発電所ネットワーク 事務局長 都筑建氏/資源エネルギー庁 新エネルギー対策課長 渡邊重信氏/東京工業大学 特任教授 黒川浩助氏
・家庭での導入事例●東京・足立区 藤田邸
・東京電力●TEPCO環境月間を展開
総合資源エネルギー調査会需給部会が3月にまとめた長期エネルギー需給見通しでは、太陽光発電の累積導入量を05年度の140万キロワットに対し、最大導入ケースで20年度に1400万キロワット、30年度には5200万キロワットを見込んでいる。
30年度について見れば、風力発電の5倍を想定するなど、他の新エネを遥かに上回る導入量が設定されている。なぜ太陽光発電をこれほど重視しているかと言えば、技術面で日本が世界をリードしているからだ。
ただ、それほど多くの太陽光発電を導入するには革新的な技術開発が不可欠であり、国が3月にまとめた「クール・アース―エネルギー革新技術計画」でも重点的に取り組むべき21の技術の一つとして挙げられている。
資源エネルギー庁の資料によると、太陽光発電の国内の累積導入量は06年で170万9千キロワット。これに対しドイツは286万3千キロワットで、05年に導入量世界一の座を奪われた後、さらにその差は拡大している。また、かつては日本企業が上位を占めていた企業別の生産量も、シャープが2位、京セラが4位に後退し、ドイツや中国、米国などの企業が台頭してきた。再生可能エネルギーの中で最も可能性のある太陽光発電で世界をリードしていくには、やはり導入の拡大につながるような支援策や技術開発が必要だ。
●ドイツの政策
ドイツで太陽光発電の導入が急増したのは、フィード・イン・タリフを導入したためだ。
これは発電コストを上回る価格で、太陽光発電による電力を20年間にわたって電力会社が購入することを義務付けたものである。他の欧州諸国や中国、韓国などでも導入され、こうした国々でも普及が加速している。
この制度については、発電コストと買取価格の差額を、最終的に電力料金の値上げという形で国民が負担することや、その額が莫大になること、長期にわたって買い取ってもらえることで、発電事業者の発電コスト削減意欲がなくなることが課題とされている。
一方、ドイツの場合、初年度に作った設備からの購入価格は20年間同じだが、翌年作ると5%少なくなり、20年経つと上乗せ分がゼロになるという形で購入価格を引き下げるので、所要資金はそれほど莫大な額にはならないという指摘もある。
結局、この制度を選ぶか否かは国や国民がこうした点をどう判断するかによるだろう。
●NEFの提案
日本では家庭用太陽光発電の設置補助事業が05年度に終了。家庭用に比べて導入が進んでいなかった産業用に重点を置いた設置補助が行われているが、これまで導入を牽引してきた家庭用の普及に陰りが出ていることから、やはり何らかの支援策が必要だ。
そこで新エネルギー財団(NEF)が提案しているのが「PVグリーンパワー導入促進制度」である。
これは、以前行われていた住宅用太陽光発電システムの設置費用の一部を支援する補助事業とは異なり、運転に対して補助を行おうというものだ。
具体的には、国・自治体などから委託された第三者機関が、標準発電電力単価(円/キロワット時)すなわち発電に要する費用と、標準購入電力単価(円/キロワット時)すなわち電力会社が購入する価格との差額の2分の1に、太陽光発電システムの容量(キロワット)と標準年間発電電力量(キロワット時/キロワット・年)を乗じた額を、支援金として最大5年間助成する仕組みだ。
太陽光発電や風力発電などの環境価値分を売買する「グリーン電力証書」があり、これを家庭用の太陽光発電にも活用しようという案もあるが、「計量法」という法律に定められた計量装置を使って計量することが条件になると、計量器の設置費用や検定費用など設置者への負担が少なくない。これに対し、PVグリーンパワー導入促進制度なら、そうした負担が不要というメリットがある。
●メーカー
04年には世界のシェアの5割程度を占めていた日本メーカーの太陽光発電の生産量は、07年には約4分の1にまで低減している。
日本企業も、例えばシャープが大阪・堺市に、年間生産能力1ギガワット(100万キロワット)規模まで拡張可能な薄膜太陽電池工場の建設を開始するなど、生産設備を増強しているが、それ以上のスピードと集中投資で外国のメーカーが事業を拡大しているためだ。
NEFによると、現在、世界でシェア1位のドイツのQセルズは、01年の創立ながら、早い段階からシリコンの長期契約を結んだり、薄膜型太陽電池の開発などに着手したりするのと平行して短期集中投資などを行った結果、北米も巻き込んだグローバル産業に成長したのだという。
また世界3位のサンテックに代表される新興企業の台頭が著しい中国では、欧州企業の支援や投資資金などを背景に、10社以上の太陽電池関連企業が海外で上場し、生産設備の増強を図っているとのこと。
こうした世界の動きに日本メーカーが追い越されないためには、シリコン原料の長期にわたる確保など、これまでにない取り組みが求められるようになっている。
●技術開発
国内では家庭用太陽光発電の設置が多く、9割近くが家庭用だ。今後も家庭用への導入拡大を図ることが重要だが、地球温暖化防止のため大規模に導入していくことを考えると、産業用の普及促進や大型発電所の建設も必要になるだろう。
すでに欧州では20メガワット(2万キロワット)の太陽光発電所があり、韓国でもこのクラスの発電所が建設中だという。これに対し、日本では大規模システムの導入に向けた実証研究が始まったところで、今後、日本でこうした設備を導入していくための方策の検討が必要だ。
また導入を拡大するには発電コストを低減するための技術開発も不可欠だ。その一つが太陽電池の高効率化であり、「クールアース―エネルギー革新技術計画」では、革新的太陽光発電を21の重点的に取り組むべき技術の一つとして挙げている。
それによると、第1世代である現在の結晶系シリコン太陽電池に次ぐ第2世代として、超薄型結晶シリコンや超高効率薄膜といった、シリコン使用量を大幅に減らした太陽電池に加え、有機薄膜、色素増感材料型など、シリコン以外の原料を使った有機系太陽電池の開発を進めることになっている。
これら第2世代については2020年に発電コストを14円/キロワット時、変換効率を10〜19%、30年には発電コストを火力発電並みの7円/キロワット時、変換効率を15〜22%に向上させることが目標だ。
また異なる吸収波長を持つ材料を接合した集光型の多接合太陽電池の開発により、30年までに変換効率40%を目指すとしている。
さらに第3三世代として50年に向けて、高効率でコストを大幅に低減できる画期的な技術として、量子ナノ構造など、新しい原理を活用した太陽電池の開発を進めていく方針だ。
□主な記事□
・バイオマス利用をめぐる国内の状況
・バイオエタノールへの取り組み
・原産協会/原産年次大会を開催
・Jパワー/大間原子力発電所に原子炉設置許可
バイオマスには多様な種類があるが、その中で、今、最も注目を集めているのは自動車用燃料としてのバイオエタノールの利用だろう。地球温暖化防止に貢献することや原油価格の高騰への対策として、米国やブラジルなどを中心に利用が進んでいる。
国内でも、バイオエタノールをガソリンに混合する実証試験が行われているが、バイオエタノールの生産が世界の食料供給に重大な影響を及ぼすようになっていることから、食料と競合しないバイオマスの利用が求められるようになっている。一方、バイオマスは自動車用燃料としてだけでなく、発電用や暖房用燃料としても利用されるようになっており、今後、様々な分野での活用が期待される。
バイオマスがなぜ地球温暖化防止に貢献するかと言えば、それは「カーボンニュートラル」な再生可能エネルギーであるからだ。カーボンニュートラルとは、CO2の増減に影響を与えない性質のこと。植物など生物由来のバイオマス燃料を燃焼させるとCO2が発生するが、植物は生長過程で光合成によりCO2を吸収するので、ライフサイクル全体で見れば大気中のCO2を増加させない、ということである。課題もあるが、バイオマスのエネルギー利用を拡大していくことはCO2の排出を削減する上で重要だ。
■バイオマス
バイオマスとは動・植物などの生物資源のこと。新エネ法では「動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもの(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造される製品を除く)」と定義されている。
その種類は多岐にわたり、分類する方法もいろいろある。例えば発生する場所で「陸地系」「水域系」「農林水産系」「廃棄物系」と分類したり、利用状況によって「廃棄系」「未利用」「資源作物」、あるいは形態によって「乾燥系」「湿潤系」と分類したりする。
「バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議」の資料によると、国内の廃棄物系バイオマスのうち、最も多い家畜排泄物は年間約8,700万トン発生し、約9割が利用されている。ただし、堆肥などがほとんどで、エネルギーとしての利用はわずかだ。
一方、製紙工場のパルプを製造する過程で出る廃液(黒液)の量は年間約7千万トンになるが、100%エネルギー利用されている。
また製材工場などの残材も約430万トンのうち約95%が製紙原料・エネルギーとして使われている。
■エネルギー変換
これに対し、年間1400万トン発生する稲わらやバガス(サトウキビの搾りかす)など農作物の食用以外の部分は、肥料・飼料などとしても全体の約3割しか活用されておらず、間伐材や伐採後に林地に残される枝や根などの林地残材に至っては、約2%しか使われていないのが現状だ。
これら未利用バイオマスの年間発生量は原油換算で約1400万キロリットルに上る。日本の原油輸入量が年間約2億5千万キロリットルであることを考えると、それをエネルギーとして有効活用することは、CO2排出削減に貢献するだけでなく、エネルギー自給率の向上にも寄与することになる。
バイオマスをエネルギーに変換する技術についてもいろいろあり、例えば木質系で乾燥しているものは、直接燃焼させたり、ペレットに成型してから燃やしたりするほか、ガス化してガスエンジンの燃料にしたりする。あるいは、家畜糞尿や下水汚泥から嫌気性発酵によりメタンを発生させて、ガスエンジンや燃料電池の燃料にしているところもある。
このように、バイオマスの種類や利用法などによりいろいろな技術が実用化されたり、研究開発が行われたりしている。
■森林系バイオ
上述のようにバイオマスのうち、ほとんど利用が進んでいないのが、間伐材や林地残材など森林系の木質バイオマスだ。
同じ木質バイオマスでも製材所から出る樹皮や木片、おが屑などは、チップやペレットに加工して専焼の発電所やボイラー、ストーブなどで使われているほか、石炭火力で混焼試験も行われるなど、かなり有効活用されている。
これに対し、森林系バイオマスは広く薄く分布していることから、収集や輸送が難しいことが利用する上でのネックとなっている。
しかし、森林系バイオマスを有効利用することは、林業の活性化を通じて、国土の7割を占める森林を健全に維持するためにも重要だ。
そこで、NEFが3月にまとめた森林系バイオマスの利活用に関する提言では、1.日本の急峻な地形に適した林業機械・システム 2.林地残材の輸送・搬送技術B作業道の開設技術―の開発が必要だとしている。
また、バイオマスの供給源となる国内林業の再建が必要との観点から、森林管理の促進についても提言。ITを用いた高度な森林データベースの「標準化」と、ICタグを使った生産管理の推進を求めている。
■バイオ燃料
バイオマスのエネルギー利用の中で、今最も注目されているのはバイオ燃料、すなわちバイオマスを原料とする自動車用燃料だ。
バイオ燃料にはガソリンの替わりになる「バイオエタノール」と、軽油代替の「バイオディーゼル燃料(BDF)」がある。
バイオエタノールは糖質・でんぷん・木質セルロースなどを原料に作られるアルコール燃料。BDFは菜種油・大豆油・パーム油などを原料とし、一般的には脂肪酸メチルエステルを指す。
エステルにするのは、植物油をそのままディーゼルエンジンで使うにはエンジンの改良が必要だが、エステルなら今使われているエンジンでそのまま使うことが出来るからだ。
海外ではバイオエタノールは米国とブラジルでの生産と消費が多く、BDFの生産と消費は欧州が多い。
日本国内でのバイオエタノールの生産については、現在、北海道から沖縄までの10カ所で様々な原料により、流通も含めた実証試験が行われている。
また利用については、海外から輸入したバイオエタノールと、原油の精製過程で出来るイソブテンを反応させて作った「ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)」を、レギュラーガソリンに7%(バイオエタノールの割合では3%、4%はイソブテン)混合した「バイオガソリン」の販売試験を石油連盟が昨年4月から行っている。
首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の50カ所の給油所で開始した同試験は、今春から宮城・群馬・茨城・静岡・大阪へ拡大し、100カ所まで増やしているところだ。その後は09年に1千カ所、10年度には全国で実施する計画である。
ETBEにするのは、物流・品質・環境の三つの面でエタノールをそのまま使うのが難しいと石油連盟が考えているためだ。一方、実証試験では、バイオエタノールを3%直接混合した「E3燃料」を使用している。
また国内のBDFについては、廃食油や菜種を使った取り組みが自治体やNPO、民間事業者を中心に進められており、家庭・飲食店・食品工場などから出る使用済みてんぷら油を回収してBDFを製造し、公営バスやごみ収集車などで利用している。
また地域の休耕田や転作田で菜の花を栽培し、菜種油を作って食用にした後、回収してBDFをつくる「菜の花プロジェクト」も全国的に行われている。
■セルロース系
バイオ燃料のうち、バイオエタノールの原料には「でんぷん質」「糖質」「セルロース系」の3種類がある。このうちセルロース系は他の二つに比べ、高度な生産技術が必要で、コストが高くなることなどから利用が進んでおらず、現在、使われているのはトウモロコシのでんぷん質やサトウキビの糖質などだ。
しかし、これらは食料や飼料としても使われていることから、世界的な食料価格の高騰という大きな問題を引き起こしている。そのため、開発が求められているのがセルロース系原料から安く大量にバイオエタノールを製造する技術である。
セルロースは、ブドウ糖や果糖などの糖分子が多数結合した高分子物質(多糖類)で、植物の細胞壁の主成分である。
細胞壁はセルロースの周りをヘミセルロースとリグニンが包み込むような形になっており、これらが非常に固く結合している。しかし、エタノールに変換できるのはセルロースとヘミセルロースだけなので、細胞壁を分解してリグニンを取り除く「前処理」と呼ばれる工程が必要だ。
これをいかに効率よく出来るかが、バイオエタノールを効率的に製造するためのカギとなっている。
このため日本独自の処理方法の実用化を目指し、昨年11月に発足した産学官連系の「バイオ燃料技術革新協議会」は、今年3月に具体的な目標や技術開発、ロードマップなどを内容とする「バイオ燃料技術革新計画」を策定。これに沿って取り組みが進められているところだ。
□主な記事□
・風力発電の現状・課題・展望
・インタビュー●東京大学工学系研究科 教授 荒川忠一氏/Jパワー(電源開発) 環境エネルギー事業部 風力事業室長 三保谷明氏
・風力発電への取り組み●Jパワー(電源開発)/三菱重工業
・中部電力 新名古屋火力8号系列の初号機が運開
風力発電の導入については、01年6月の新エネルギー部会で、10年度の累積導入量を300万キロワットとする目標が掲げられている。
これに対し06年度末における導入量は約150万キロワットにまで拡大。その後の設置補助の申請状況から、10年度の目標は何とか達成できると見られていたが、思わぬ問題が生じて目標達成が危ぶまれる事態になっている。
それは、マンションの耐震設計偽造問題を受けての建築基準法の改正である。高層建築物を対象とした安全性の強化が、風力発電にも適用されることが判明し建設が進まなくなっているというのだ。
京都議定書目標達成のためにも積極的な導入が望まれる、風力発電の現状や課題などを探った。
導入の拡大に伴い、系統連系や景観への影響、野鳥の衝突事故(バードストライク)、さらには事故による停止といった問題が次々に提起されるようになっている風力発電だが、こうした問題については、国の審議会などでの議論を通じて解決への糸口が示されるようになっている。これに対し、建築基準法の改正による安全性の強化という課題に対しては、いまのところ従うほかないという状況だ。しかし、京都議定書目標達成に向け、あらゆる対策を講じなければならない中で、2010年に300万キロワットという風力発電の導入目標は何が何でも達成する必要がある。このため、何らかの対策が講じられる見込みだが、その上で、2030年に600万キロワット、あるいはそれ以上の導入に向けて取り組みを進めていくことが重要だ。
●改正建築基準法
国内の風力発電の累積導入量は、02年度末46万3千キロワット、04年度末92万7千キロワット、06年度末149万1千キロワットと、ここ5年ほどの間に加速度的に伸びている。
このため10年度に300万キロワットという導入目標については「設置補助金の応募状況を見ると、ぎりぎり達成できるのではないか」(山下充利・資源エネルギー庁新エネルギー対策課課長補佐)と見られていたが、昨年6月に施行された改正建築基準法により導入のペースが鈍ってしまった。
建築基準法は05年に発覚したマンションの耐震設計偽造問題を受けて改正されたもので、高層建築物に対し超高層建築物と同等の安全性が求められるようになった。
工作物の種類を問わないことから、風車に対しても適用されることになり、建設するための手続きが繁雑になった上、場合によっては建設許可が下りない可能性も出てきている。
というのは、改正建築基準法では高さが60メートルを超える超高層建築物については、JIS(日本工業規格)またはJAS(日本農林規格)に適合した材料を使わなければならなくなり、そうでない場合は大臣認定を受けなければならなくなったからだ。
現在、日本で導入されている風車の約3分の2は外国製の風車であるため、大臣認定を受ける必要があり、そのための試験を行わなければならなくなったのである。
●構造設計の強化
また改正建築基準法では、風車の構造計算において風速や地震に対する基準が厳しくなり、地震については、100年に1回来るであろう大地震に耐えられるような構造とすることが求められるようになった。
しかも、従来の「靜荷重」すなわち一度の揺れに対して耐えるのではなく、ある一定の時間耐えられなければならない「時刻暦応答解析」という手間のかかる計算をしなければならなくなり、さらには風車1本1本について行わなければならないため、従来に比べ遥かに時間とコストがかかるようになっている。
加えて解析すればそれで終わりでなく、評定委員会で評定を受けなければならないということもある。
こうしたことから導入のペースが遅くなり、目標達成が厳しくなっているが、京都議定書目標達成のためには風力発電の導入も必要なことからエネ庁としても「安全性を説明して理解を求めるなど、何とかしなければならない」(山下氏)と考えている。
●系統連系
風力発電の導入拡大に伴い生じてきた問題のうち、系統連系の問題については、新エネルギー部会の「風力発電系統連系対策小委員会」が05年6月にまとめた中間報告で、解列や蓄電池の導入、発電電力量予測システムの開発などの対策が示された。
これを受けて北海道電力は、発電の出力変動に対応する調整力が足りない時間帯に風力発電を系統から切り離したり、出力抑制を行ったりする解列条件での募集を06年度に実施。東北電力は電力貯蔵用蓄電池を設置して風力発電の出力変動を調整する条件での募集を、06年度と07年度に行っている。
北電の解列条件枠の募集に対しては2件が応札。東北電力の蓄電池枠での06年度の募集については、出力一定制御型で2件、出力変動緩和制御型で3件が決定した。
ちなみに出力一定制御型とは、蓄電池の出力調整により、単位時間ごとの電力系統への送電電力を発電計画に基づいて一定にする方式で、出力変動緩和制御型は、蓄電池の出力調整によって風力発電の出力変動を緩和するものだ。
また発電電力量予測システムに関しては、07年度で終了したNEDOの風力発電電力系統安定化等技術開発事業の中の「気象予測に基づく風力発電量予測システム開発プロジェクト」で、当日から翌日までの風車の出力をシミュレーションで予測するプログラムが開発されている。
一方、景観・バードストライクの問題については、昨年3〜6月に経済産業省と環境省の「風力発電施設と自然環境保全に関する研究会」が4回開催され、風力発電と野生生物や景観などの保全との両立に向けての論点整理を行った。
その中で、例えばバードストライクは個々の事例だけで議論するのではなく、個体群への影響を含めた客観的・科学的な調査を行った上で検討することが必要―などの指摘がなされており、環境省が今年度から3年間の予定でバードストライクに関する調査・研究を開始するなど、取り組みが始まっている。
●日本型風車
導入の拡大に伴い増えてきた風車の事故に対しては、日本の風況に合った「日本型風車」の開発が必要との認識から、NEDOが07年度までの3年間でガイドラインの取りまとめを行い、5月中に公表される見込みだ。
同ガイドラインでは、強風・乱流と雷に関して、実態調査や対応策などを明らかにすることになっており、強風の際、羽根が水平になって風を受け流すような仕組みになっているにも関わらず、停電して機能せずに壊れることを防ぐため最低限の電池を設置する―などの対策が示されることになる。
また乱流については、三菱重工が開発した、1回転ごとに羽根のピッチ(角度)を独立に制御・変化させることで、風車にかかる風の力を低減させて耐久性を向上させる「独立可変ピッチ」や強度のあるブレードの開発などが盛り込まれる見込みだ。
雷については、どの程度の対策で十分なのかが把握しきれていないところがあり、今回のガイドラインでまとめるのが難しい状況にあることから、国は新規に予算を計上し、継続して落雷対策技術や雷の性情に関する研究開発を行う方針である。
●洋上風力
日本型風車ということでは、日本に合った洋上風力発電技術の開発も必要だ。欧州ではすでに洋上風力が実用化されているが、欧州は遠浅の海なので、すぐに深くなる日本に技術をそのまま導入することは出来ない。
そこで国は07年度に先行調査を行い、08年度は2億円の予算により実用化に向けたFS(可能性)調査を行うことになった。さらに、その結果次第では09年度以降に実証研究が行われる見込みだ。
洋上に風車を設置する場合、陸上に比べ建設コストがかかるため、1基の出力が5メガワット(5千キロワット)以上でなければコスト的に見合わないと考えられており、欧州ではすでに6メガワットが実用化されている。
さらに米国で7メガワット、欧州では10メガワットを目指したアップウインド計画が進められていることから、東京大学の荒川忠一教授は「日本でも10メガワットの風車の開発を急ぐべき」と話している。
この規模になると、従来の風車とは素材も構造も異なるものが要求される。
荒川教授によれば、風車は現在のグラスファイバーではなく炭素繊維を使った2枚羽根、超電導発電機を使い、陸から5〜10キロの水深50メートルぐらいのところに、やぐらを組むジャケット式で設置するのが有力だという。
エネルギー需給見通しでは、2030年の風力発電の累積導入量を600万キロワットという数字が示されているが、こうした風車が出来れば3千万キロワットの導入が可能だと荒川教授は見ている。
電気記念日特集
□主な記事□
・オール電化の現状と課題
・インタビュー●東京電力 営業部生活エネルギーセンター デザインセンター所長 森尻謙一氏/東電不動産 不動産事業本部 営業部部長 山田英一氏
・事例●ヴァンガードタワー/ブリリア アーブリオ 戸塚
・グリーンパワーキャンペーン(主催:資源エネルギー庁)
日本全体のCO2排出量のうち、約3割は家庭やオフィスから排出されており、その量は京都議定書の基準年である1990年度に比べ約4割も増加している。そのため、こうした民生部門におけるCO2の削減も重要な課題だ。
それを解決する解の一つとして挙げられるのが「電化」である。例えば民生部門の冷暖房や給湯などを、すべて電気式のヒートポンプで賄えば、日本のCO2排出量の約10%が削減できるという試算がある。
中でも家庭用分野では、オール電化住宅の普及が進んでおり、最近は賃貸マンションでも、オール電化を採用する事例が見られるようになっている。電気記念日を機に、CO2排出の少ない「低炭素社会」に貢献するオール電化に改めて注目した。
住宅は大きく 1.注文戸建て 2.分譲戸建て 3.分譲マンション 4.賃貸マンション 5.低層アパートの5つに分けられる。このうちオール電化が進んでいるのは注文戸建て住宅だ。注文戸建てに限れば、全国で約6割、すなわち新築住宅の2軒に1軒以上がオール電化と言われている。建設コストが電気・ガス併用物件に比べて高いことから、注文戸建てほどには伸びていないものの、最近は分譲戸建てや分譲・賃貸マンションなどでも、オール電化を採用する動きが見られるようになっている。
■オール電化
オール電化住宅とはキッチン・給湯・冷暖房など、家庭で使うすべてのエネルギーを電気で賄う住宅のことだ。
キッチンではIHクッキングヒーター、給湯にはエコキュートや電気温水器、冷暖房には電気式床暖房や蓄熱式電気暖房器、省エネエアコン、全館空調システムなどを使用する。
このうちIHクッキングヒーターは、コイルに電流を流して発生させる磁力線の力で鍋自体を発熱させる調理器。かつて使われていた火力の弱い電熱コンロと異なり、強力な火力を得ることが出来る。
火を使わないので安心な上に、手入れが簡単でキッチンを清潔に保てること、キッチン周りの温度上昇や体温上昇を抑えられることなどが特長だ。
エコキュートは冷媒に代替フロンではなく、自然冷媒(CO2)を使ったヒートポンプ式の給湯システムである。
COP(エネルギー効率)が約3、すなわち投入したエネルギーの約3倍のエネルギーが得られることから省エネ性が高く、CO2排出削減にも貢献する次世代型の給湯システムだ。
オール電化の導入をためらう人の中には停電の心配を挙げる人がいるが、東京電力を例にとると、1軒当たりの停電回数は8年間に1回程度。しかも事故による停電時間は1軒当たり年平均で5分程度だ(非常災害・工事計画による停電を除く)。
逆に、阪神・淡路大震災後のライフラインの復旧に関するデータでは、電気が7日であったのに対し、都市ガスは83日を要していることを考えると、むしろオール電化は震災に強いと言える。
またオール電化にすれば火災保険の割引が適用されるというメリットもある。これは、保険料が安くなるという面もあるが、むしろ保険会社がオール電化の火災リスクを低く見ていることを示しており、安全性にお墨付きを与えているという意味合いが大きい。
このように、火を使わないので安心であること、給湯などは割安な夜間電力を使うのでランニングコストが安いこと、エコキュートを使えば、より一層CO2排出削減にも貢献できること―などがオール電化の特長だ。
■現状と課題
オール電化の普及率は地域で異なるが、リクルートが07年に実施した調査によると、特に普及が進んでいる中国・四国と九州地方では、新築注文戸建て住宅の8割以上がオール電化だ。全国的には6割超となっており、注文戸建て住宅に限れば、オール電化は今や一般的なものと言えるだろう。
東京電力が04年に行ったユーザー調査によれば、オール電化住宅にした理由のベスト3は「火事の心配が少ないなど安全なイメージがある」「IHクッキングヒーターを使いたかった」「光熱費が安いと思った」となっている。
特に注文戸建ての場合は、建設コストを負担する人と住む人が同じであることから、建設費が割高であっても光熱費=ランニングコストが安いことは、ローンを返済していく上で大きなメリットである。
逆に分譲戸建てやマンション、低層アパートでは、ランニングコストが安いということは、デベロッパー(開発業者)やオーナーにとって、セールスポイントにはなるものの、直接的なメリットにはならないということで、オール電化に魅力を感じていないデベロッパーがいるのも事実である。
さらに、マンションの場合は、エコキュートを設置することで販売面積が減ると見られてしまうこともデメリットだ。例えば、仮に1台当たり1平方メートルの設置面積が必要だとすると、50戸あれば50平方メートルになり、貯湯槽を置くことで1戸分が減ってしまう計算になる。
この点については、エコキュートを採用する場合、省エネに貢献する機器ということで、建築基準法によって設置スペース分は容積率制限の緩和が受けられることになっており、これを適用する物件も見られるようになっている。ただし、それには各地の建築審査会で許可を得る必要があり、それに2カ月程度の時間がかかるのが課題だ。
このように集合住宅での設置に課題があるエコキュートであるが、これが省エネ性・省CO2性に優れた機器であることは間違いなく、京都議定書目標達成計画の中でも、2010年までに520万台を普及させるとする目標が示されている。
このため、国だけでなく、自治体でも設置補助制度を設けて普及を後押ししているが、さらに導入を拡大していくためには、性能の一層の向上やコンパクト化などの取り組みも必要だ。
そして、エコキュートを採用しやすくなることが、オール電化をさらに広めていくことになると言える。
省エネ月間特集
□主な記事□
・省エネの現状と対策
・インタビュー/省エネルギーセンター専務理事 河野修一氏
・省エネの実践事例/山武 藤沢テクノセンター「第100建物」
・ENEX2008開催
日本は京都議定書で、08年度から12年度の5年間の平均で、90年度に比べ温室効果ガスを6%削減することを約束したが、現状は逆に6%増加しており、約束期間内に12%削減しなければならなくなっている。
このため産業構造審議会環境部会と中央環境審議会の合同会合で、目標達成計画の見直しを行い、その最終報告案が昨年の12月にまとめられた。
同案では、現行の目標達成計画に加え追加的な対策を実施すれば目標は達成できるとしているが、その主な対策の一つとして挙げられたのがクールビズやアイドリングストップなどのエコドライブ、省エネ製品の選択などの国民運動だ。
京都議定書の目標達成に向け、これまで以上に国民一人ひとりの自覚が求められるようになっていると言える。
新春特集
□主な記事□
・座談会「原子力―私はこう見る」●出席者/前原子力安全委員会委員長代理 松原純子氏/ジャーナリスト 東嶋和子氏/ウイメンズ・エナジー・ネットワーク(WEN)会員 乾文子氏/科学技術ジャーナリスト 尾崎正直氏(司会)
・原子力回帰へ世界の動き
・東北電力●仙台火力をリプレース
・九州電力●オール電化住宅が40万戸突破
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