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□主な記事□
・資源エネルギー庁 新エネルギー対策課 課長補佐 根岸寿実氏に聞く
・インタビュー●東京工業大学 特任教授 黒川浩助氏/太陽光発電協会 事務局長 岡林義一氏
・国内でも建設進むメガソーラー
・Jパワー●高経年化水力をリニューアル
昨年復活した住宅用太陽光発電の設置補助と、新たに導入された余剰電力買取制度の効果により、国内での住宅用太陽光発電の導入が拡大している。また国内でも本格的な太陽光発電所の建設が全国で進められるようになるなど、一時は停滞気味だった太陽光発電市場が活況を呈するようになった。
その一方で、家庭用については施工トラブルや強引な訪問販売などの問題も報じられている。さらに世界的に見れば、かつて太陽電池のシェアで世界の上位を占めていた日本メーカーは、欧米や中国メーカーの後塵を拝するようになっている。太陽光発電に注目した。
資源エネルギー庁によれば、09年の国内の太陽光発電の累積導入量は約262万7千kWで、前年に比べ22%増となった。ただ、国が目標として掲げている2020年に2800万kWという目標を達成するためには、今後も大幅な増加が必要であり、国の普及支援とともに太陽電池を始めとする技術革新が求められている。
●設置補助
国内で太陽光発電の普及が拡大しているのは、昨年1月から住宅用太陽光発電の設置補助制度が復活したことと、同11月から余剰電力買取制度が新たに導入されたためだ。
これらの施策は08年7月の「低炭素社会づくり行動計画」と昨年4月の「経済危機対策」により、太陽光発電の導入目標が大幅に引き上げられたことから、その対策として講じられることになった。
設置補助については、すでに94年度から05年度まで実施され、当初は設置価格の半額を補助していたが、導入拡大と設置費用の低減に伴い、最終年度の05年度には1kW当たり2万円にまで下がっていた。
しかし、設置補助制度がなくなったことで普及の伸びが鈍化していた。
新しい補助制度は、昨年1月13日にスタートし、太陽光発電協会が窓口となっている。同協会ではこの事業を実際に行う組織として「太陽光発電普及拡大センター(J―PEC)」を設置。補助金交付申請の受付や審査と交付決定の通知、補助金額の決定と支払いなどを行っている。
補助金額は1kW当たり7万円で、昨年1月から12月までに約12万件の申請があった。
●余剰電力買取
余剰電力買取制度は、太陽光発電の余剰電力の買い取りを電気事業者に義務付ける制度で、ドイツなどのように発電電力の全量を買い取るフィードインタリフ(FIT)制度と異なっているのが特徴だ。
余剰電力としているのは、家庭で省エネに努めれば、その分売電量が増えるため、省エネ意識が向上するからだ。
買取期間は10年、住宅用については初年度の買取価格が1kW時当たり48円となった。
これは、それまで電気事業者が実施していた「余剰電力買取メニュー」の2倍程度に相当し、既設の設備にも適用されている。
来年度以降に設置した場合の買取価格については、導入状況や市場価格の推移などを見極めながら低減させていく方針だ。
なお自家発電設備などを併設する「ダブル発電」の場合は、その分を減額しており、初年度の買取価格は39円/kW時となっている。
また非住宅用の初年度の買取価格は24円/kW時、自家発電設備を併設する場合は20円/kW時だ。
●全量買取
余剰電力買取制度が500kW以下の非事業用を対象にしているのに対し、現在、国の買取制度小委員会で議論しているのが、事業用太陽光発電も含めた再生可能エネルギーを対象とする全量買取制度だ。
これは、文字通り事業用太陽光や風力、中小水力などの再生可能エネルギーで発電した電力を、すべて電気事業者が買い取ることを義務付けるものだ。
7月に同小委員会のプロジェクトチームが示した制度イメージによると、太陽光発電の買取期間は10年で、買取価格については導入拡大による価格低減が期待できることから、当初は高い価格を設定して段階的に引き下げるとなっている。
また現在、余剰電力買取制度が適用されている住宅用太陽光発電などについては、現行制度を維持する見込みだ。
なお、これらの買取費用の負担については、国民の「全員参加型」の制度という観点から、すべての需要家が使用量に応じて広く薄く負担することになっている。
余剰電力買取制度では、標準家庭の負担額は導入当初で月額約30円、5〜10年目には同約45〜90円になるとされていたが、全量買取制度になると、同約150〜200円になるとの試算が示されている。
●課題
各地で大規模太陽光発電所(メガソーラー)が建設されるようになっているものの、日本では住宅用が8割ほどを占めており、新たな支援制度により導入促進が図られる中で、悪質な訪問販売や施工の不備、故障率の高さなどの課題が報じられるようになった。
このうち訪問販売については、住宅リフォームなどでも問題が生じるようになったことから、昨年12月に特定商取引に関する法律(特商法)と割賦販売法が変更され、訪問販売の規制が改正されたことで、太陽光発電についても悪質な販売は姿を消すようになっているという。
また施工に関しては、現在、国が三菱総合研究所に委託して実施している「住宅用太陽光発電の普及促進に関する調査」で、太陽光発電の標準化や設計・施工ガイドラインの策定、業界認定の制度である「PV施工士」の導入などについて検討を行っているところだ。
ちなみに、同調査では太陽光発電システムのリユースや、太陽電池のリサイクルなどについても議論している。
●技術開発
太陽光発電の導入を将来的にも拡大していくためには、技術革新が重要だ。
日本の太陽光発電の技術開発は、NEDOが04年に策定し、昨年6月に見直しを行った技術開発戦略「太陽光発電ロードマップ(PV2030+)」に基づいて進められている。
同ロードマップでは、発電コストを20年に14円/kW時、30年には7円/kW時にすることを目指しており、これを実現するため、国は「次世代高性能技術の開発」と「革新的な太陽電池の研究」の二つのプロジェクトを実施している。
次世代高性能技術の開発では、高効率化とコスト低減の観点から、各種太陽電池の要素技術の確立と、横断的な材料開発・周辺技術の開発を企業や大学などで行っているところだ。
一方、革新的な太陽電池の研究では、変換効率が40%で発電コストが汎用電力料金並みを目指し、東京大学先端科学技術研究センターと、産業総合研究所をそれぞれ中心とする二つのグループが、現状とは異なる概念の太陽電池の研究に取り組んでいる。
□主な記事□
・NEDO スマートコミュニティ部 蓄電技術開発室室長 弓取修二氏に聞く
・インタビュー●日本自動車工業会 広報室 グループ長 魚住宏氏/次世代自動車振興センター 次長 吉名隆氏
・EV普及へ―神奈川県の取り組み
・電力中央研究所フォーラム2010
経済産業省が4月に公表した「次世代自動車戦略2010」(ロードマップ)では、2020年の乗用車の新車販売台数に占める次世代自動車の割合を、最大で50%とする政府目標を示した。
次世代自動車とは、ハイブリッド自動車や電気自動車、プラグイン・ハイブリッド自動車などの、いわゆるクリーンエネルギー自動車のこと。
このうちハイブリッド自動車については、すでにトヨタのプリウスの販売台数が世界で200万台を突破するなど、実用レベルにあるものの、他の次世代自動車については、まだ普及レベルにはないのが現状だ。次世代自動車普及への課題を探った。
次世代自動車の中で、すでに普及段階にあるハイブリッド自動車(HV)は日本メーカーが圧倒的なシェアを占めているが、電気自動車(EV)とプラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)の開発・普及については世界的に競争が激化しており、各国で官民一体となった取り組みが進められている。日本でも、運輸部門における低炭素社会の実現を目指し、EVとPHVの本格普及に向けた実証実験のためのモデル事業「EV・PHVタウン」が昨年度から開始された。
●HV
日本自動車工業会によれば、09年度の次世代自動車の普及台数は約103万3千台。その約95%がHVだ。
HVとは二つ以上の動力源を組み合わせた自動車のこと。現在、普及しているHVはエンジンとモーターを組み合わせたものだが、これに例えば燃料電池を組み合わせてもよい。
その特長は、状況に応じて動力源を変えることで、燃費を向上させるとともに、排出ガスを低減できること。
HVの代名詞と言えるトヨタ自動車のプリウスの燃費は10・15モードでリッター35.5kmだ。
HVについては、トヨタが専用車種のプリウスを始め、レクサス・クラウン・ハリアー・エスティマ・SAIといった乗用車、ダイナダンプ・トヨエースダンプなどの業務用車両でも採用している。
トヨタ以外では、ホンダがHV専用車種として乗用車のインサイトとスポーツカーのCR―Zを販売しているほか、フィットとシビックのHV仕様をラインアップ。
特に10月8日に発売したフィットのHVは、159万円という通常のガソリン車並みの低価格を実現しており、HVが本格的な普及段階に入ったと言えるだろう。
また日産自動車も11月2日、大型車ながらコンパクトカー並みのリッター19kmという低燃費を実現した、最高級セダンであるフーガのHVモデルを発売した。
ちなみに外国メーカーでは、メルセデス・ベンツとBMWが大型車でHVをラインアップしている。
●EV
EV開発については米国や中国のベンチャーを始め、世界的に開発が行われるようになっている。
日本でも三菱自動車が昨年7月から軽自動車のアイをベースに開発したアイ・ミーブを市場投入し、今年4月からは個人向け販売も開始。富士重工も昨年7月から軽自動車のステラがベースのプラグイン・ステラの納入を開始した。
また日産は乗用車のEVであるリーフを12月から日本と米国で、来年初頭から欧州で販売する計画を立てており、10月22日に生産開始を発表している。
さらにトヨタも5月に米国のEVベンチャーのテスラモーターズと、EVと部品の開発、生産システム、技術に関する業務提携を実施していくことで基本合意し、7月にはEV試作車の開発に着手することで合意した。
●蓄電池
このようにEVの開発が本格化しているが、EVには1充電での走行距離と充電インフラの整備という大きな課題がある。
ガソリン車では1回の満タンで500km以上走れるが、現状ではアイ・ミーブとリーフの1充電の走行距離は160km程度にとどまっており、さらにエアコンを使うと大幅に走行距離が減少するとも言われている。
走行距離を伸ばすには蓄電池性能の向上が必要だ。
現在、EVで使われているのはリチウムイオン電池だが、その性能向上に向けた競争が世界的に激化しており、さらに次世代の蓄電池開発も進められるようになっている。
リチウムイオン電池の性能向上のカギとなっているのが正極材料の開発だ。
具体的には、リチウムに何を組み合わせるかがポイントで、現在の代表的なリチウムイオン電池では、正極にコバルト酸リチウムを使っているが、コバルトの替わりにマンガンやニッケル、リンを使ったり、コバルトも含めてそれらを組み合わせたりして大容量化を図っている。
ただし、単に大容量化すればいいというわけではなく、充放電サイクルや寿命、安全性なども重要な要因だ。
また次世代蓄電池としては、今のところ金属空気(酸素)電池、中でも亜鉛空気電池が有力とされている。
この電池は正極で電子を奪う物質として空気中の酸素を使う。このため、正極側の重量をゼロにでき、エネルギー密度を飛躍的に向上できる可能性がある。
ただ現在、実用化されているのは一次電池で、蓄電池として使うには、充電効率の向上などの課題を克服することが必要だ。
●PHV
PHVは家庭用電源からプラグを使って充電できるHVのことだ。
通常のHVに比べ蓄電池の搭載量が多いため、電気のみでの走行距離がHVより長くなっているのが特長だ。
現在、市場導入されているのは中国BYDのF3DMとトヨタのプリウスPHVで、電気走行はF3DMが約96kmとされており、プリウスは23.4kmとなっている。
F3DMは08年12月に販売を開始したが、価格が中国の一般的なガソリン車の2倍以上もするため、発売から100台程度しか売れていないという。
一方、プリウスPHVは、昨年12月から日米欧の特定顧客を中心に、約600台を順次納入している。
日本では、官公庁やEV・PHVタウンに選定された自治体、電力会社をはじめとする法人などの特定利用者に対し、約230台をリースしている。
また米国では、官公庁・企業・大学・研究機関などを対象にデモプログラムの位置付けで約150台を提供して、走行データの取得やインフラの開発推進などを行うほか、欧州では約200台をリースしている。
□主な記事□
・東京電力 執行役員 国際部長 久玉敏郎氏に聞く
・インタビュー●前参議院議員 加納時男氏
・早稲田大学・東京都市大学/共同原子力専攻を開設
・高レベル放射性廃棄物の地層処分に向けて
日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)が1963年10月26日に茨城県東海村の動力試験炉で発電に成功して以来、日本では着実に原子力発電の導入を進め、運転実績を築いてきた。
世界的に原子力へ回帰する中で、日本の技術を世界に普及させていくことは世界の原子力の安全な運用にとって、また日本の産業にとっても重要であり、官民が一体となって海外に展開する取り組みが始まったところだ。
さらに今後、日本がこの分野で世界をリードし続けるために必要な人材育成や次世代炉の開発、核燃料サイクルの確立に向けた動きも始まっている。原子力の新たな展開に注目した。
□主な記事□
・石炭利用の現状とクリーン・コール・テクノロジー(CCT)
・インタビュー●日本エネルギー経済研究所 戦略・産業ユニット 石炭グループ 研究主幹 佐川篤男氏
・クリーン・コール・デー石炭利用国際会議
・CCT開発への取り組み
石油や天然ガスが特定地域に遍在しているのに対し、石炭は世界中に分布していることから、その利用はエネルギーセキュリティの確保に寄与することになる。
また石炭には可採年数が他のエネルギー資源に比べて最も多く、価格が比較的安価で安定しているという特長もある。
このため、日本にとって石炭が重要なエネルギー資源であることには変わりがない。
その一方で、燃焼の際、他のエネルギー源に比べCO2排出量が多いことが課題となっており、これを克服するための技術開発が行われている。
9月5日のクリーン・コール・デーを機に、石炭に注目した。
BP統計によれば、世界の石炭消費は04〜09年に年率3.5%増加し、09年は石油換算で32億8千万tであった。世界の一次エネルギー消費に占めるエネルギー資源の割合は、石油が34.8%と依然として最も多いが、石炭も09年は29.4%を占め、70年以降で最も高い割合となっている。このように、世界のエネルギー消費の中で石炭の重要性は増す傾向にあり、その分、クリーンに利用する技術の開発が求められるようになっている。
●消費と生産
世界で最も多く石炭を消費しているのは中国だ。09年は30億9千万tで、世界の消費量の半分近くを占めている。
次に多いのが米国で、以下インド、ドイツ、ロシアと続き、上位3カ国で全体の7割近くを消費している。
米国は石炭消費の9割が発電用で、発電電力量に占める石炭火力の割合は50%程度に上っている。
日本は世界7位の消費国であり、世界最大の輸入国だ。
09年は世界の貿易量の約2割となる1億6500万tを輸入した。輸入先の6割が豪州で、インドネシアも含めると8割になる。
それ以外ではカナダ・ロシア・中国からの輸入が多い。
一方、09年の世界の石炭生産量は69億280万tで、上位5カ国は中国・米国・インド・豪州・インドネシアである。
このうち中国は29億7千万tを生産し、世界の生産量の43%を占めているが、消費に生産が追いつかないため、輸入国に転じている。
ちなみに2位の米国は9億8千万t、3位のインドが5億6千万t。インドも消費に生産が追つかず、世界4位の輸入国になっている。
またインドネシアも生産が急増している。石炭には、製鉄に使われる原料炭と発電用燃料などに使われる一般炭があるが、インドネシアでは特に輸出向けの一般炭が00年の5448万tから、09年の2億16万tへ3・5倍に増えている。
輸出については、世界最大の輸出国は豪州だ。09年の輸出量は2億6千万tで世界の石炭貿易量の3割近くを占めている。
●石炭の特徴
石炭の特徴は埋蔵量が多いことだ。09年の可採埋蔵量は8260億t。これを生産量で割った可採年数は119年となっている。石油が45年、天然ガスが62年とされているのに比べれば大きな数字だ。
また世界各地に資源が分散していることも特徴だ。
ただし埋蔵量では、上位5カ国である米国・ロシア・中国・豪州・インドで全体の78%を占めている。
もう一つの特徴は、他の化石燃料に比べて安価で安定していること。
中国をはじめとするアジア諸国の需要増により08年7月に豪州一般炭のスポット価格は、それまでのトン当たり50〜60ドルから200ドルまで高騰したが、世界金融危機の影響により急落し、現在は90ドル程度に落ち着いている。
日本における08年度のエネルギー源の輸入価格をカロリー当たりで比べると、1千kcal当たり原油が6.42円、LNGが5.06円なのに対し、一般炭は2.24円であることから、相対的に安価だと言える。
●A−USC
世界的に石炭の利用が拡大していく中で不可欠なのが、クリーン・コール・テクノロジー(CCT)の開発だ。
石炭には資源としての大きなメリットがある一方、利用に当たっては、他の化石燃料に比べて地球温暖化の原因とされるCO2や、大気汚染物質であるSOxやNOxなどの排出が多いというデメリットがある。
それを解決するのがCCTであり、日本はCCT開発で先行している。
CCTには様々な技術があるが、現在、特に注目されているのが、石炭火力の一層の高効率化とCO2分離回収貯留技術(CCS)である。
熱効率が向上すれば石炭の使用量が減るため、CO2排出も低減することができる。日本の石炭火力発電の効率は20年以上世界のトップを維持しており、最新鋭の超々臨界圧発電技術(USC)を採用したJパワー(電源開発)の磯子火力発電所1・2号機や関西電力の舞鶴発電所1・2号機などは、600度C級の蒸気温度により、42〜43%の熱効率を達成している。
石炭火力は蒸気圧力と蒸気温度により、亜臨界圧・超臨界圧(SC)・USCに分けられている。
亜臨界圧は蒸気圧力が22.1MPa未満、SCは蒸気圧力が22.1MPa以上で蒸気温度が566度C以下、USCはSCのうち、蒸気温度が566度Cを超えるもののことだ。
熱効率は亜臨界圧が38%程度であるのに対し、SCは40%程度、USCは42〜43%へと向上している。ちなみに海外における石炭火力発電の販売シェアが多い中国製は亜臨界圧だ。
日本ではさらなる効率向上を目指し、700度C級の先進超々臨界圧発電技術(A―USC)の開発が進められており、46〜48%の熱効率を目指している。
●IGCC
現時点では、A―USCが石炭を直接燃焼させる方式での効率向上の限界になると見られており、それを上回る技術として開発が進められているのが石炭ガス化複合発電(IGCC)だ。
IGCCは石炭と空気を高温で反応させて可燃性ガスを作り、そのガスでコンバインドサイクル発電を行う技術だ。
1500度C級のIGCCでは熱効率48〜50%を目指している。
現在、電力9社とJパワーが設立したクリーンコールパワー研究所が、常磐共同火力(福島県いわき市)の勿来発電所構内で、25万kWの実証機を建設して、商用化に向けた運転試験を行っているところだ。
またNEDOとJパワーは、IGCCへの適用を視野に入れた多目的石炭ガス製造技術開発(EAGLE)プロジェクトを、Jパワー若松研究所(北九州市)構内にパイロットプラントを建設して進めている。
EAGLEを次世代技術である石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)で利用すると、55%以上の熱効率が得られると見込まれている。
●CCS
CCSは、発電所などから出るCO2を分離・回収して、地下1千m以上の地中に閉じ込める技術だ。
化学プラントから発生する排ガスから、CO2を回収する技術については、すでに実用化され使われている。
しかし、石炭焚きの排ガスには不純物が多く含まれていることや、回収するCO2の量が化学プラントに比べ桁違いに多いこと、さらに回収したCO2の貯留場所など多くの課題があり、実用化に向けた技術開発が各国で行われている。
日本では、電力やガス、石油、エンジニアリングなど37社が出資して設立した日本CCS調査が、CO2回収のFS(実現可能性)調査や、貯留適地の調査などを行っているほか、三菱重工業は来年から、米社と共同で実証試験を開始する計画だ。
□主な記事□
・太陽熱利用の現状と新たな展開
・インタビュー●日本ガス協会 業務部 部長補佐 江口俊一氏/大和ハウス工業 東京支社 マンション事業部 第一営業所 係長 堀達雄氏
・太陽熱利用への取り組み●東京ガス/大和ハウス工業
・エネルギーソリューション&蓄熱フェア開催
1979年の第二次オイルショックの翌年には、年間80万台以上も全国で設置されていた太陽熱温水器は、石油価格の低減などにより、07年には同5万台まで落ち込んでいた。
しかし、東京都が太陽熱を太陽光発電とともにCO2削減対策の柱に位置付けたことで再び注目を集めるようになり、先ごろ改定されたエネルギー基本計画でも太陽熱の利用拡大が謳われるなど、太陽熱利用を見直す動きが本格化している。
それに伴い、集合住宅で採用されたり、太陽熱を利用して冷房を行う装置が開発されたりするなど、新たな展開が見られるようになっている。
太陽熱利用が見直されるようになった理由の一つとして挙げられるのが、太陽熱利用機器のエネルギー変換効率が太陽光発電に比べ高いことだ。太陽光発電に使われる太陽電池の変換効率は、高いものでも20%程度であるのに対し、太陽熱利用では40%以上になる。さらに設置費用が太陽光発電に比べて安いことも見直される一因になっている。
■世界の現状
太陽熱利用は90年代以降、世界的に利用が進んでおり、IEAの調査によれば、07年末の世界の太陽熱集熱器の設置容量は約1億4700万kWth(キロワットサーマル=熱出力の単位)に上る。
設備容量だけみれば、風力発電や太陽光発電を上回り、新エネルギーの中で最も導入が進んでいると言える。
国別導入量で最も多いのは中国で約8千万kWth。次が米国で約2100万kWth、以下、トルコ(約710万kWth)、ドイツ(約660万kWth)、日本(約520万kWth)と続いている。
中国で導入が進んでいるのは、経済成長で生活水準が向上する一方、エネルギーインフラの整備が不十分なことから、給湯用に安価な真空管式が使われているためだ。
米国や、日本に次ぎ導入量が多いオーストラリアでは、主にプール加温用として、プラスチック製の集熱器が使われている。
欧州では各国で再生可能エネルギーの導入策の一環として、太陽熱利用が進められている。
■日本の状況
日本では2度のオイルショックを挟んで数多くのメーカーが参入。第二次オイルショック後の80年代には研究開発が盛んに行われ、多様な製品が市場投入された。
しかし原油価格が下がると年々導入量が減少し、さらにはあるメーカーの強引な訪問販売が社会問題化したことが、導入の減少に追い打ちをかける結果となった。
その後、地球温暖化対策が世界的な課題となる中で、東京都が06年に「20年までに00年比で25%のCO2排出を削減」という目標を掲げ、太陽熱利用を太陽光発電とともに対策の柱と位置付けたことで、再び注目を集めるようになった。
都では4万世帯に住宅用太陽エネルギー利用機器(太陽熱・太陽光)を導入させることを目標に、昨年度と今年度の2年間、設置補助を行っている。
また今年度から「グリーン熱証書」制度を導入し、それを企業などに売却して得た代金を、来年度以降の設置補助事業費に充てる計画だ。
ただし、こうした設置補助事業を行っているのは現在、自治体だけだ。そのため認知度もいまひとつで、東京都の補助への申請件数も、7月30日現在で太陽光が1万件を超えているにも関わらず、太陽熱は200件程度に留まっているのが現状だ。
■メリット
太陽熱を利用するメリットは、省エネ・省CO2に大きく貢献することだ。
ソーラーシステム振興協会によれば、03年末時点で使われている太陽熱集熱器(集熱器面積で約1300万m)から得られる年間集熱量を原油換算すると、約74万klに相当する。
これを1日当たりに置き換えると約2千klとなり、ドラム缶約1万本分の節約になる。
また、これによるCO2排出削減効果は年間約193万tで、03年の家庭部門の年間CO2総排出量の約3%に相当する。
さらに太陽光発電に比べると、エネルギー変換効率が高く設備がシンプルなことから、設置コストが安いのも大きなメリットだ。
■従来の装置
従来の太陽熱利用機器には、太陽熱温水器とソーラーシステムの二つがある。
太陽熱温水器は自然循環式とも呼ばれ、太陽で暖められた水が自然に循環して貯湯タンクに湯が蓄えられる仕組みだ。
これに対し、ソーラーシステムは屋根には集熱器のみを置き、蓄熱槽を地上に設置して、ポンプで不凍液などを循環させたり、送風機で空気を循環させたりして熱を利用する。
このため強制循環式と呼ばれ、熱の伝達に不凍液を利用するものを水式ソーラーシステム、空気を使うものを空気式ソーラーシステムと言う。
水式は太陽集熱器で高温になった不凍液などを循環ポンプで循環させ、蓄熱槽に蓄えた水を蓄熱槽内の熱交換器で温めるが、天気が悪く集熱量が不十分な場合は、補助熱源器で加温する。
作った湯は温風暖房や床暖房などで使うこともできる。
空気式は集熱面などで高温に達した空気を、屋根裏に設置した送風機ユニットで床下に送風し、床下の蓄熱材(コンクリート)で熱を蓄えた後、室内に入れて直接暖房する。 蓄熱槽の中に蓄えた水を送風機ユニット内の熱交換器で温めて湯を作ることもできる。
ソーラーシステムは太陽熱温水器に比べると割高だが、湯温が高く湯量が多いことや、シャワーの圧力が高いなどのメリットがある。
なお「ソーラーエネルギー利用推進フォーラム」では、ソーラーシステムの呼び名を「SOLAMO」に統一することを、今年6月30日に開催された第2回ソーラーエネルギー利用推進フォーラムのシンポジウムで宣言した。
同フォーラムは太陽熱の利用促進のため、都市ガス業界とLPガス業界による「ガス体エネルギー普及促進協議会」が中心となって昨年6月に設立したもの。
特に欧米では太陽光発電はPVで、ソーラーと言えば太陽熱利用を思い浮かべる人がほとんどなのに対し、日本で実施したアンケートでは、ソーラーで熱利用を思い浮かべるのは10%程度にすぎないことが分かったことから、名称を変更することにした。
■新たな展開
このように従来は太陽熱を使って比較的シンプルに戸建て住宅で給湯や暖房を行ってきた。
しかし、太陽熱利用が見直される中で、最近は集合住宅で採用したり、他のシステムと組み合わせて熱の有効利用を図ったり、熱を冷房に利用したりする製品が開発されるようになっている。
集合住宅では、埼玉県越谷市にニュータウンとして開発され、08年3月に街開きした「越谷レイクタウン」内に大和ハウス工業が建設した500戸の分譲マンションで、住棟セントラル方式のソーラーシステムを採用している。
一方、機器については東京電力がデンソー、業界最大手の矢崎総業と、太陽熱とエコキュートを組み合わせた「エコキュート・ソーラーヒート」を共同開発。
東京ガスは太陽熱を利用した業務用の給湯システム「小規模業務用太陽熱パッケージ」、集合住宅の各住戸のバルコニーの手すりで集熱する「太陽熱利用ガス温水システム」、太陽熱を冷暖房に利用する「高効率ソーラー空調システム」を開発。
また東京・大阪・東邦の都市ガス3社は、太陽熱を利用して冷房を行う業務用の空調機「ソーラー吸収冷温水機」を、川重冷熱工業・三洋電機・日立アプライアンスと共同開発している。
さらに、太陽熱を利用した発電装置の開発が進められたり、住宅用で太陽光発電と組み合わせたシステムが製品化されたりするなど、太陽熱利用は新たな展開を見せるようになっている。
□主な記事□
・産業用ヒートポンプのメリットと現状
・寄稿●日本エレクトロヒートセンター 会長 片倉百樹氏
・工場省エネの切り札―排熱回収型ヒートポンプ
・再生可能エネルギー世界フェア2010開催
産業分野は「絞り切った雑巾」と言われるほど、省エネへの取り組みが徹底してきた。しかし、京都議定書で示された温室効果ガスの削減目標や、鳩山前政権が掲げた20年までに温室効果ガスを90年比で25%削減するという目標を達成するためには、同分野でもさらなる省エネ・省CO2対策を講じることが必要だ。
そこで期待されるのが産業用ヒートポンプの利用拡大である。
ヒートポンプはエネルギー利用効率が高いうえ、従来は不向きとされていた高温加熱を始め、産業用の優れた製品が次々に開発されるようになってきたことから、同分野での普及が着実に進んでいる。
国内の産業分野で使われているエネルギーの約3割がボイラーで消費されている。ヒートポンプ経済効果研究会が10年6月に発表した試算によると、その約40%が電動ヒートポンプで代替することが可能で、それによるCO2削減効果は4千万t以上に上るという。今後も、より高効率な機器や、適用温度の範囲が広い機器などが開発されることが期待されることから、その効果はさらに大きなものとなるであろう。
■メリット
産業分野でも、ヒートポンプはこれまで冷暖房や冷却プロセスで使われてきた。
しかし、最近は高温の熱を供給することができる機器が製品化されたことにより、加温・加熱プロセスでも使われるようになっている。
ヒートポンプを使うメリットは、従来利用されることがほとんどなかった工場排熱や河川水の中にある熱を汲み上げて活用することで、大幅な省エネ・省CO2が期待できることだ。
特に排熱回収型ヒートポンプは、冷凍機のクーリングタワーからの排熱や温水洗浄後の排熱、加熱炉からの排熱、製品冷却後の排熱など、通常は利用困難な0〜50度C前後の排熱を熱源として有効利用することができる。
これにより、化石燃料の燃焼によって熱を作り出すのに比べ、より高い効率で温熱を製造することができ、さらに冷水側と温水側の両方で熱を活用するシステムでは、一層の高効率での熱利用ができる。
最新の機器では、加熱・冷却のトータルエネルギー効率(COP)が7、すなわち1のエネルギーを投入すると7の冷温熱を取り出すことができる機器も登場している。
ただし、ヒートポンプを設置すれば、それだけで、十分な効果が得られるというわけではない。
導入に当たっては、いつ、どこで、どれだけの熱が必要なのか、またどの熱をどう回収するのが最適かといった、十分な検討が必要だ。
こうした熱の「見える化」を行うことが、産業分野でヒートポンプを活用するうえで不可欠なのである。
■多様な展開
それでは、具体的にどのような形で使われているのだろうか。
産業分野でヒートポンプが使われているのは「工場空調」「冷却」「加熱」「乾燥」などだ。
このうち工場空調に関して、特にヒートポンプの威力が発揮されるのが、液晶ディスプレイや半導体などの電子機器を製造するクリーンルームの空調である。
クリーンルーム内では、年間を通じて24時間空調が行われている。そこにヒートポンプ技術の応用であるインバーターターボ冷凍機を使うことで、大幅な省エネ・省CO2が可能になるわけだ。
冷却で代表的なのが、食品産業における加熱・冷却工程でのヒートポンプの利用である。加熱処理後の冷却に使う冷水を安定して供給しつつ、夜間に蓄熱を行うことで、熱源機の容量を抑え設備費を抑制する、氷蓄熱式ヒートポンプが広く使われている。
一方、加熱と乾燥については、これまでヒートポンプはあまり得意でないとされていたが、この1年ほどの間に、90度Cの高温を出湯するものや、120度Cの熱風を発生するヒートポンプ、冷温水同時供給が可能なものなど、多様な排熱回収型ヒートポンプが製品化されたことで、様々な工程で使われるようになった。
例えば食品の加温・殺菌や半導体洗浄などで、ボイラーの替わりに高温出湯型ヒートポンプを採用することにより、CO2排出を70%以上削減することが可能になる。
また麺の製造工程のように、100度C前後の加熱と数度Cの温度による冷却がある工程で、冷温水同時供給可能なヒートポンプを導入すれば、エネルギーとCO2の削減が図れるだけでなく、節水にも貢献できることになるのである。
このように、産業用ヒートポンプは多様な展開を見せるようになっているが、こうしたメリットがまだ十分に製造現場で知られていないのが現状である。
そこで現在、業界を挙げて広く情報提供を行っているところだ。
□主な記事□
・バイオマスの種類とエネルギー利用
・インタビュー●電力中央研究所 エネルギー技術研究所〈燃料高度利用領域〉 上席研究員 大高円氏/新エネルギー財団(NEF) 計画本部 企画調査部 企画課長 岩崎信顕彰氏
・木質バイオマスの活用事例
・進むバイオマス利用の技術開発
バイオマスとは動植物由来の有機物資源のこと。再生可能で、利用しても大気中のCO2を増加させないカーボンニュートラルな性質がある。
京都議定書の目標を達成するためにはバイオマスエネルギーの利用拡大を進めていくことが必要だ。しかし、バイオマスには様々な種類があり、パルプの製造工程で出る「黒液」のように、すでに100%エネルギーとして利用されているものがある一方、林地残材や食品廃棄物、農作物非食用部など利用率が低いものもある。
そのため、それぞれのバイオマスの性質に応じた対策が講じられるようになっている。
バイオマスは「廃棄物系バイオマス」「未利用バイオマス」「資源作物」の三つに大きく分けることができる。その利活用には 肥料・飼料・消臭炭・プラスチック・バイオ燃料などの製品としての利用と 発電・熱利用などエネルギーとしての利用―の二つの方法がある。ここではバイオ燃料を含めたエネルギー利用を取り上げる。
バイオ燃料
●種類
「廃棄物系バイオマス」の主なものとしては家畜排泄物・下水汚泥・黒液・紙・食品廃棄物・製材工場などの残材・建設発生木材がある。
農林水産省の資料によれば、このうち製材工場などから年間約430万トン出る残材は、約95%が製紙原料やエネルギーなどとして利用されているものの、同約1,900万トン発生する食品廃棄物は27%程度しか利用されていないのが現状だ。
「未利用バイオマス」は、稲わらを始めとする農作物非食用部と間伐材などの林地残材である。
農作物非食用部は、同約1,400万トンのうち有効利用されているのは30%程度にすぎず、林地残材に至っては、同約800万トンの発生量のほとんどが未利用のままにとどまっている。
未利用バイオマスが使われていないのには、それなりの理由がある。
それは、廃棄物系バイオマスは利用する・しないにかかわらず、処分のため収集しなければならないことから、処理方法さえ確立されれば利用が進むのに対し、未利用バイオマスはそもそも収集が行われていないため、利用の前に、まず収集する手段を考えなければならないからである。
「資源作物」は、バイオ燃料の原料を作るために生産される作物のこと。サトウキビ・甜菜などの糖質資源、コメ・トウモロコシなどのデンプン質資源、菜種・大豆などの油脂資源がある。
●バイオ燃料に
利用されていないバイオマスの活用法としては、資源作物同様、バイオ燃料の原料として使う取り組みが進められている。
なぜバイオ燃料かといえば、これを国内で生産することで「食糧・農業」「エネルギー」「環境」の三つの面でメリットがあるからだ。
食糧・農業については、耕作放棄地をエネルギー原料の栽培に使うことで食料供給力の維持・向上が見込まれることや、新産業の創出により雇用機会の増加と農村の活性化などが期待できる。
環境に関しては、カーボンニュートラルという特性によって京都議定書の目標達成に大きく貢献するとともに、廃棄物系と未利用バイオマスの活用により、循環型社会の形成に寄与することができる。
またエネルギーでは、石油代替エネルギーの生産による原油価格高騰への対応と、エネルギー源の多様化によるエネルギー安全保障に資することができる。
ただ、糖質・デンプン質を原料とするバイオ燃料の生産拡大には、食料価格の世界的な上昇を引き起こすという課題と、カーボンニュートラルとはいうものの原料の生産・運搬・燃料生産などの過程でCO2を排出しているという指摘がある。
そのため、食料と競合しない食品廃棄物や農作物非食用部を活用するための技術開発と、原料生産から燃料使用までの環境への負荷を総合的に評価する手法の確立が必要だ。
●液体燃料
バイオ燃料には、主に「バイオエタノール」「バイオディーゼル燃料」「木質固形燃料」「バイオガス」の4種類がある。
バイオエタノールは糖質原料・デンプン質原料から作られるが、食料との競合を避けるため、食品廃棄物や農作物非食用部・林地残材などの「セルロース系原料」から生産するための技術開発が行われている。
バイオエタノールはガソリンの替わりに使われ、国内では現在、ETBEという化合物の形でガソリンに3%混合した「バイオガソリン」を使う実証試験が行われている。
バイオディーゼル燃料は軽油の代替燃料として使われる。菜種油やヒマワリ油などの油糧作物から直接製造する方法と、使用した食用油を回収して製造する方法の二つがある。
バイオディーゼルの生産が盛んなEUでは菜種油やヒマワリ油から直接製造しているが、日本ではコスト面から廃食用油を使うのが一般的だ。
国内の製造・利用は、自治体やNPO、民間企業などを中心に進められており、08年3月時点の農水省の推計では、全国で約1万キロリットルが生産され、市バスやごみ収集車などで使われている。
●固形・気体燃料
木質バイオマスのうち間伐材や林地残材、製材工場から出る端材などは、チップとして火力発電所やボイラーの燃料としても使われているが、木質固形燃料と言った場合は、特に微粉化して乾燥・圧縮し、円筒状に成形したペレットを差す。
効率の良いペレットストーブが開発されていることや、灯油価格が高騰したことなどもあって、ペレットストーブでの利用が増加する傾向にある。
一方、バイオマスからのガスの製造には、家畜排泄物や食品廃棄物をメタン発酵させてガス化する方法と、木質バイオマスを無酸素状態で蒸し焼きにしてガス化する方法の2通りがある。
すでに各地でプラントが造られて稼働しているほか、より効率的にガスを製造する装置の開発が行われている。
メタン発酵によるガス化の技術開発で現在、特にポイントとされているのが乾式メタン発酵技術の実用化である。
メタン発酵技術には湿式と乾式がある。湿式は汚泥などの発酵物を液状で発酵させるもので、畜産糞尿や下水汚泥の処理などで広く使われている。発酵物が液体なので発酵を均質に行えるものの、発酵後の排水を処理しなければならないということがある。
一方、乾式は発酵物を固形状のまま発酵させることから、排水処理が不要で設備を小型にできるというメリットがある。ただし、まだ実証段階であることから、実用化に向けた技術開発が進められている。
●総合戦略
バイオマスの利活用については、これまで02年に策定され、06年に改訂された「バイオマス・ニッポン総合戦略」に基づき進められてきた。
しかし、これは閣議決定であり、さらなる利活用の推進には法的な裏付けが必要との観点から、「バイオマス活用促進基本法」が昨年6月に国会で可決・成立し、現在、同法に基づいてバイオマス基本計画の策定が進められているところだ。
バイオマス・ニッポン総合戦略は、バイオマスの利活用を政府一体となって総合的かつ計画的に進めるため、02年12月に閣議決定された。
同戦略ではバイオマスの活用推進のため「地球温暖化の防止」「循環型社会の形成」「戦略的産業の育成」「農山漁村の活性化」の4本柱を設定。
10年までに廃棄物系バイオマスの80%、未利用バイオマスの25%以上の利用を目指すという目標を掲げている。
●改訂と基本法
ただ同戦略を推進していく中で、重点ポイントの設定が必要とされるようになったことから、06年3月に4本柱は残したまま「バイオ燃料の利用促進」「バイオマスタウン構想の加速化」「アジアなど海外との連携」の三つの取り組み事項を盛り込んだ改訂案が閣議決定された。
このうち、バイオ燃料の利用促進については、改訂後に新しく行程表を作成。その中で、11年に5万キロリットル、30年には600万キロリットルのバイオ燃料を利用するという目標を設定した。またバイオマスタウン構想ついても今年度中に300地区を構築するという目標を掲げた。
これらの目標のうち、バイオマス燃料利用の11年に5万キロリットルについては、現時点で4万klを超えており、バイオマスタウン構想についても今年4月末現在で279地区が認定されていることから、いずれの目標も達成できる見込みだ。
バイオマス活用推進基本法は議員立法で成立したもので、昨年9月12日に施行された。同法では総合戦略の理念はそのままに、バイオマス活用推進基本計画を策定することを求めている。
具体的には「バイオマス活用推進会議」と「バイオマス活用推進専門家会議」を設置。推進会議では1府6省の政務官が委員となり、基本計画の策定作業を行っているところだ。さらに同計画の策定後、都道府県・市町村でもバイオマス活用推進計画を作ることになっている。
東京電力
□主な記事□
・さらなる高効率化に挑むLNG火力
・火力技術の海外への展開
・石炭火力増設とCO2排出抑制対策
・燃料安定供給確保への取り組み
現在、見直しが進められているエネルギー基本計画案では、火力発電について「エネルギーセキュリティ上の重要な位置づけを持つほか、再生可能エネルギー由来の電気の大量導入時の系統安定化対策に不可欠な存在である等、今後も極めて重要」との認識を示している。その上で、引き続き最新設備の導入やリプレースなどにより高効率化に努めることを求めている。
こうした中、東京電力ではLNG火力のさらなる効率向上を図っているほか、発電後の蒸気を使った省エネ事業や、よりバランスの取れた電源構成とするため石炭火力を増設するなど、火力発電への新たな取り組みを進めている。同社の火力発電に関する最新動向と、それを支える燃料安定供給確保への取り組みを紹介する。
東京電力は1969年、南横浜火力発電所に世界で初めてとなるLNG専焼火力が誕生して以来、燃料消費量の低減とCO2排出削減につながる熱効率の向上に努めてきた。当初は低位発熱量基準(LHV)で42%だった熱効率は、現在では59%に達しており、さらなる高効率化を目指している。また発電に使用した後の蒸気を発電所周辺の工場に供給するなど、省エネ・CO2削減の新たな取り組みにも着手している。
●熱効率の変遷
現在、東京電力でLNGを燃料として使用している火力発電所は9地点ある。
同社では、LNG火力の熱効率を向上させるため、この約40年間に、従来型の汽力発電からコンバインドサイクル発電(CC発電)、改良型コンバインドサイクル発電(ACC発電)、1,500度級コンバインドサイクル発電(MACC)、1,600度級コンバインドサイクル発電(MACC2)へと発電設備の技術開発に取り組んできた。
従来型の汽力発電、すなわち燃料(LNG)をボイラーで燃焼させ、その熱で蒸気を作って発電する方式を採用しているのは袖ケ浦・姉崎・五井火力などで、当初の熱効率は42〜43%であった。
その後、大容量化(例:南横浜の35万キロワットに対し東扇島は100万キロワット)するとともに、蒸気の高温・高圧化を図ることで、熱効率は45%まで向上している。
次に取り組んだのがCC発電である。ガスタービンで仕事をし、温度の下がった排ガスを排熱回収ボイラーで蒸気を作り、その蒸気で蒸気タービンを回すという、従来とは異なる発電方式により、熱効率は47%まで向上した。
CC発電を採用したことで、効率が向上しただけでなく、運転方法も大きく変わった。
CC発電は汽力発電と比較すると、起動・停止が早く、需要の変動に即応できるようになった。
また小容量のユニットを複数台設置する構成となっているため、中・低負荷の時はユニットの運転台数を調整することにより、常に定格出力に近い運転ができるなど、運用の際の熱効率も向上した。
東電では86〜88年に営業運転を開始した富津火力1・2号系列(各100万キロワット)で初めてCC発電を採用している。
次に開発されたのが、ACC発電である。これは1,100度級ガスタービンを採用したCC発電に対し、ガスタービン高温部の耐熱材料や冷却技術の開発・改良等により、ガスタービン入口ガス温度を1,300度まで向上させたものだ。
さらに蒸気タービンの入口蒸気条件が高温・高圧化し、再熱サイクルを採用したことで、熱効率は54〜55%へとCC発電に比べ大幅に向上した。
ACC発電は、98年に運開した横浜火力7・8号系列(各140万キロワット)と、00年に運開した千葉火力1・2号系列(各144万キロワット)などで採用されている。
●MACC
このACC発電に改良を加え、現時点では世界最高効率を達成している発電方式がMACCだ。
ガスタービン入口ガス温度を1,500度に向上させることで、熱効率を59%まで向上させた。
MACCを採用しているのは川崎火力と富津火力である。ただし、川崎火力が三菱重工製であるのに対し、富津火力はGE社製と異なるガスタービンを採用している。
このため、高温化したガスタービンを冷却するシステムが両者で異なるなど、同じMACCと言っても設計思想に若干の違いがあるという特徴がある。
まず川崎火力は、高経年化により廃止した旧川崎火力を廃止と同じ敷地に建設され、07年6月から09年2月にかけて運開した1号系列第1〜3軸(各50万キロワット)で採用している。
発電所を更新するに当たって、当初はACCの採用が計画されていたが、技術開発が進み、より効率の高いMACCにリプレースすることになった。
1,500度という高温に対応するため、ガスタービンの動静翼や燃焼器などの高温部品には、ニッケルをベースとした高温耐熱材料を採用。さらに最新の冷却技術と高温遮熱コーティングにより、高温部品表面の金属の温度をACC発電と同等に抑えて、苛酷な高温域運転における信頼性を確保しているのが特徴だ。
99年に着工後、一時工事を中断したが、03年10月に再開し、06年12月から初軸が試運転を開始し、目標としていた59%の熱効率を達成した。
一方、富津火力では08年7月と09年11月に第1・2軸(各50万7千キロワット)が運開し、今年10月に第3軸が運開する予定の4号系列でMACCを採用している。
富津火力では、1,500度への対応として、従来の翼内部に空気通路を設け、空気を通して冷却する方法に対し、ガスタービン1・2段動静翼内部を冷却能力の高い蒸気を通して冷やすという新たな技術を採用した。
また材質については、ガスタービンの翼を1,500度に耐えられるものにしなければならないことから、動静翼の一部を高温に強い単結晶としているのも特徴だ。
なお4号系列が完成すると、富津火力は合計出力が504万キロワットとなり、世界最大級の火力発電所が誕生することになる。
●MACC2
MACC2はガスタービンの入口ガス温度をさらに向上させ、1,600度にしたもので、熱効率は約61%に向上する。
この温度に耐えられる設備とするため、ガスタービンの冷却技術や動静翼表面のコーティングを改良するなどの新技術を採用し、MACCに比べ100度の上昇に対応できるような設計となっている。
またこれにより、蒸気タービンに使われる蒸気も高温化することから、耐熱材料の改良を行っている。
MACC2は、川崎火力2号系列第2・3軸(各71万キロワット)と、五井火力1号系列第1〜3軸(各71万キロワット)で採用する計画だ。
川崎火力については、昨年9月3日に環境影響評価方法書を経済産業相に届け出るとともに、神奈川県知事や東京都知事、川崎市市長などに提出。12年度に着工し、第2軸は16年度、第3軸は17年度に運転を開始する予定である。
五井火力は、1963年6月に初号機が営業運転を開始して以来、1〜6号機(計188万6千キロワット)が稼動している。
しかし、すでに46年以上が経過していることから、設備の高経年化に対応するため更新することにした。
具体的には、現在稼働している1〜6号機の発電設備を廃止・撤去したうえで、21〜23年度にかけて1系列3軸構成の213万キロワットの最新鋭LNG火力発電設備へ更新する計画だ。
五井火力についても、1月25日に、設備更新に関する環境への影響を評価するための調査・予測・評価方法を取りまとめた環境影響評価方法書を経済産業相に届け出るとともに、千葉県知事と市原・千葉市長などに提出した。
MACC2を採用することにより、汽力発電方式に比べ燃料使用量・CO2排出量ともに30%程度の低減が見込まれている。
●蒸気供給事業
東電の火力発電の取り組みの中で、もう一つ注目されているのが、川崎火力で発電に使用した後の蒸気を、発電所のある千鳥・夜光地区コンビナート内10社の工場に供給する、省エネ、CO2削減の取り組みだ。
東電と日本触媒、旭化成ケミカルズの3社は06年10月に、この事業を行うための会社「川崎スチームネット」を設立し、今年2月1日に営業を開始した。
この事業では、同コンビナート内に新たに蒸気配管を敷設するとともに、新日本石油精製の既設の蒸気配管も一部利用し、川崎火力1号系列から発電に使用された後の約2メガパスカル、350度の蒸気を供給して、工場で再利用する。
供給を受けるのは、川崎化成工業・昭和電工・大同特殊鋼・東京油槽・日本ゼオン・日本乳化剤・日本ポリエチレン・日油の8社に、日本触媒と旭化成ケミカルズを加えた10社。
従来、コンビナート内の各社はそれぞれボイラーで蒸気を作り、原料の加熱などに利用していたが、これを川崎火力からの蒸気に切り替えることで、年間約1万1千キロリットル(原油換算)の燃料と、約2万5千トンのCO2排出量の削減効果が期待できる。
これは、一般家庭約9,500世帯分の年間エネルギー消費量と、約4,500世帯分の年間CO2排出量に相当する。
千鳥・夜光地区コンビナートでは、04年度のNEDOの省エネ調査事業で「複数の工場が蒸気を共同利用することで、さらなる省エネが可能」とする調査結果が示されていた。
これを踏まえ3社は、事業の検討を進める一方、他の9社と共同でNEDOに「エネルギー使用合理化事業者支援事業」の応募申請を行い、選定された。
なお、この事業の推進にあたっては、「カーボン・チャレンジ川崎エコ戦略(CCかわさき)」を策定し、臨海部での企業間連携による産業競争力の強化など、川崎の特徴・強みを生かした地球温暖化対策に積極的に取り組んでいる川崎市も協力している。
東電ではこの取り組みを、地域の省エネへの貢献と、電力だけでなく蒸気も供給するという火力発電所の新たな価値創造という点で意義あるものと見ている。
□主な記事□
・国内の風力発電の現状と展開
・インタビュー●東京大学 工学系研究科 教授 荒川忠一氏/ユーラス エナジー ジャパン 社長 祓川清氏
・ユーラスエネジーの取り組み
・欧州で進む洋上への展開
風力発電は地球温暖化防止に貢献する技術として普及が期待され、2001年6月に示された長期エネルギー需給見通しでは、10年度の累積導入量を300万キロワットとする目標が掲げられている。
しかし改正建築基準法の影響により導入が停滞して導入目標の達成が難しくなっているうえ、陸上の開発適地の減少や景観への影響、野鳥の衝突事故、騒音などといった問題も提起されるようになっている。
ただ風力発電は再生可能エネルギーの中で最もコストが安く、他の再生可能エネルギーに比べ国民負担をかけずに温室効果ガス削減の目標達成に貢献できることから、今後も着実に普及を進めていく必要がある。
風力発電の現状や普及への課題などを探った。
日本風力発電協会(JWPA)によれば、09年末の世界の風力発電導入量は前年に比べ約31%増の1億5,790万キロワット。これに対し日本は205万6千キロワットで、世界全体の設備容量の1.3%にとどまっている。世界の風力発電が急速に拡大している一方、日本では新規導入量が減る傾向にあり、今後導入を進めていくためには、固定価格での長期買取制度である「フィードインタリフ」(FIT)を導入した上で、系統連系対策や洋上風力発電へ取り組むことが必要だ。
●ポテンシャル
そもそも日本には、どれだけ風力発電のポテンシャルがあるのだろうか。
国の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会が示している数値は、2000年3月の新エネルギー等導入基礎調査によるもので、陸上で640万キロワットとなっている。
一方、JWPAが今年の1月15日に公表した長期導入目標とロードマップによれば、国内の風力発電のポテンシャルは陸上だけで6,500万キロワットだ。
ちなみに、洋上については、前者は着床式で4千万キロワット、後者も着床式2,900万キロワット、浮体式3,900万キロワットといずれもかなり大きな値になっている。
陸上の数値が両者で大きく異なっているのは、算定条件が異なるためだ。
例えば風力データの推定方式として、前者が統計手法を用いているのに対し、後者は数値シミュレーション手法を採用。土地の傾斜条件を前者が10度以下としているのに対して後者は制限せず、適用風車単機出力についても前者が1千キロワットであるのに対し、後者は1千〜5千キロワットの間で指定していないといったことだ。
もちろん、これはあくまでもポテンシャルで、周辺環境への影響や建設コストが事業に見合うかなどを考慮すると、実際にどの程度開発できるか不明だが、いずれにしても、日本には国産の風力エネルギーが相当量あることは事実だ。
●現状
日本国内の風力発電の導入量は昨年末現在で205万6千キロワットにとどまった。しかも年度別の導入量は06年度の40万5千キロワットをピークに、07年度18万5千キロワット、08年度は17万9千キロワットと減少傾向にあり、10年度に300万キロワットとしてきた国の導入目標は達成が難しい状況だ。
一時は急速に導入が拡大し、太陽光発電を上回る注目を集めていた風力発電の普及がなぜ停滞してしまったのか。
風力発電事業者懇話会(WPDA)とJWPAが昨年9月にまとめた自然エネルギー白書(風力編)では、この理由として、マンションの耐震設計偽装問題を受けて改正された建築基準法の施行による初期の混乱、世界的な風車需要の増加による影響、導入量増加に伴う電力会社の募集容量制限や抽選・入札制度の導入などを挙げている。
このうち、建築基準法の改正では、大型風車に対し超高層建築物と同等の安全性が求められ、工作物の扱いから建築物扱いになり、確認審査と大臣認定を受けることになったが、国土交通省が効率的な運用を探って半年ほど試行錯誤を行ったことで、導入に遅れが出た。
また世界的な風車の導入の増加は、風車や交換部品などの価格上昇などの影響をもたらし、国内での風車の普及促進を阻害する要因になった。
一方、電力会社が募集容量の制限を行ったり、抽選・入札制度を取り入れたりしているのは、風力発電の変動する電力が大量に系統に入ってくると、周波数変動が生じて工場の機械や家電製品などに悪影響を及ぼす恐れがあるからだ。
このため、受け入れる能力はあるものの、住宅も多く風力発電の開発に適した土地が少ない東京・中部・関西以外の電力会社では、抽選や入札により風力発電事業者を決定し、その後に詳細検討を行う方式を採用している。
また北海道・東北・北陸・四国の4電力会社は通常の連系以外に解列方式や蓄電池設置方式による募集も行うようになった。
解列とは、風力発電の出力変動に対応する調整力が足りない時間帯に、風力発電を系統から切り離したり、出力の抑制を行ったりすること。
蓄電池の導入は、ウインドファームにNAS電池などの電力貯蔵用設備を設置して、風力発電の出力変動を調整するものだ。
こうした手段を講じることである程度、導入量は増えるものの、連系可能量は電気事業連合会が08年5月に公表した500万キロワットが限界であり、それ以上増やすとなると、やはり抜本的な系統連系対策が必要になる。
さらに陸上では自ずと限界があるため、将来的には洋上への設置が不可欠だ。
●FIT
ただ、それ以前の問題として、風力発電事業者の採算が悪化し、国内での新規立地が難しくなっているという問題がある。
採算悪化の理由は、資源の高騰や改正建築基準法の適用により建設コストが上昇したことだ。
さらに環境アセスメントが風力発電にも義務付けられるようになったことや、電気事業法の風力発電に関する技術基準を定める「風技省令」により、雷や台風などの対策が求められるようにもなり、さらに建設コストが上がる見込みだ。
そのため、WPDAとJWPAは昨年11月30日に「風力発電を対象としたFITに関する要望」を発表し、民主党がマニフェストで掲げているFITの導入と、導入の際には買取期間・価格が事業採算性を満たす水準に設定されるよう求めている。
●系統連系対策
一方、系統連系対策については、まず考えられるのが会社間連系線の活用だ。会社間連系線とは、文字通り電力会社間を結んでいる送電線のことで、これを通じて他の電力会社の調整力の活用などを図るということだ。
これに関しては、北海道電力と東北電力、東京電力の3社が昨年12月に北海道地域と東北地域で風力発電の導入を拡大する実証試験を開始すると発表した。
この試験は、既設の地域間連系線を通じて、東電が北電と東北電から電力を一定受電することで、それぞれの地域内の系統に、新たな調整力を生み出すものだ。
北電と東電は先行して北海道地域内での実証試験の実施について基本合意。両社は新たに生み出した調整力を活用し、北海道地域内で14年度をめどに合計10〜20万キロワット程度を目標とする風力発電を新規導入し、その電気を北電が受電することにしている。
合わせて、調整力が不足する場合の抑制・停止など、風力発電の出力制御技術を組み合わせ、北海道地域内における風力発電の導入拡大の影響などに関するデータ取得や分析を行い、検証する計画だ。
なお、東北電と東電の2社による実証試験の実施については現在、詳細を検討中である。
●洋上風力
こうした対策を講じるとしても、陸上での設置はいずれ限界に達することから、将来的には洋上設置を検討しなければならない。
遠浅の海がある欧州ではすでにデンマークやドイツなどで洋上風力が実用化されているが、すぐに深くなったり台風があったりする日本に、欧州の技術をそのまま導入することはできないため、日本に合った洋上風力の開発が必要だ。
すでにいろいろなところで研究が行われているが、その一つに東電と東京大学が共同で行っている研究がある。
両者は昨年8月から「洋上風況観測システム実証研究」を開始した。
2014年3月まで、千葉県銚子市の南沖合に風況観測タワーを設置して風況や波浪などを観測し、気象・海象条件を把握するとともに、海洋構造物が環境に与える影響などについても調査を行う。
東電はこれまで、陸上に比べて風況が良い、洋上の風力エネルギーの有効活用を図ることを目的に、04年から昨年3月まで「洋上の風況観測」「着底式洋上風力発電の基礎構造の研究」「フロート式洋上風力発電の基礎的研究」を東大などと共同で行ってきた。
今回の実証研究は、NEDOが「洋上風力発電等技術研究開発」の一環として公募したもので、東電はこれまでの基礎的研究の成果を生かし、洋上風力発電を実用化するための必要不可欠なステップになると判断して応募し受託した。
研究の成果はNEDOが公募している、実際に洋上に風力発電機を設置した実証研究の成果などと合わせ、日本の自然条件に適した洋上風力発電技術の確立に生かされる予定だ。
一方、国内の風力発電のトップメーカーである三菱重工の欧州拠点であるMPSEは、英国政府と2月25日に覚書を締結し、ビジネス・イノベーション省から最大3千万ポンド(約42億円)の補助を受け、洋上風車の開発プロジェクトに取り組むことになった。
MPSEは、すでに同国エネルギー・気候変動省から同設備の開発に関して81万ポンドの助成を受けることが決まっている。
プロジェクトは3つの段階で構成され、第1段階は5千〜7千キロワット級の洋上風車実証機を製作・試験する。
第2段階では英国に洋上風車先端技術センターを設置して、洋上風車の先端技術を開発。第3段階では、大型の複合材タービンブレードの設計と開発、関連生産技術の開発を進める。
これは国内の洋上風力の開発にも寄与すると考えられ、このプロジェクトに取り組むことは、次世代の洋上風車の開発・製造に向けた本格的な第一歩になるものと期待されている。
電気記念日特集
□主な記事□
・各部門で進む電化
・ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エレクトリック2009
・連載/業務部門で進むヒートポンプ給湯機の利用
・連載/平成方丈記「スマートグリッド」
3月25日は「電気記念日」。1878年(明治11年)のこの日、東京・虎ノ門にあった工部大学校(東京大学工学部の前進)で、日本最初の電気灯がともされた。
その後、電気は我々の生活に浸透し、今や民生・業務・産業の各部門で電化が進められるようになっている。
電化が進む背景にはいくつか理由があるが、その一つが低炭素社会に寄与することだ。
電気は発電の家庭でCO2を排出しない再生可能エネルギーや原子力からつくることができるので、低炭素社会を実現するには、電気にシフトせざるを得ないのである。
そこで電気記念日を機に、各分野における電化の現状や取り組みを探った。
各部門のうち、いちはやく電化が進んできたのは民生部門の家庭部門である。家庭用自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯機「エコキュート」の出荷台数が昨年末現在で200万台を突破したことは、オール電化住宅の着実な普及を裏付けている。一方、民生の業務部門や産業部門でも、小規模から大規模まで、低温から高温まで、幅広い応用が可能な高効率の電化システムが製品化されてきたことにより、電化の動きが進んでいる。さらに運輸部門でも電気自動車(EV)の販売が開始されるなど、低炭素化に向け全部門での本格的な電化が始まったと言える。
●家庭部門
オール電化住宅の普及は全国で着実に進んでいる。関西電力管内と東京電力管内では、それぞれ昨年9月末と12月末で累計件数が70万戸を超えた。
中部電力管内でも昨年8月末で累計件数が49万戸を突破し、中国電力管内は昨年9月末現在で約39万9千戸となり、40万戸に達するのは時間の問題だ。東北電力管内も昨年末現在で20万戸を突破している。
オール電化住宅では、キッチンでIHクッキングヒーター、給湯にはエコキュートや電気温水器、冷暖房は電気式床暖房や蓄熱式電気暖房器、省エネエアコン、全館空調システムなどを使用する。
IHクッキングヒーターは、コイルに電流を流して発生させる磁力線の力で鍋自体を発熱させる調理器。かつて使われていた火力の弱い電熱コンロと異なり、強力な火力を得ることができる。
安全機能も充実している上に、手入れが簡単でキッチンを清潔に保てること、キッチン周りの温度上昇や体温上昇を抑えることなどが特長だ。
一般家庭では給湯とキッチンが電化されていないだけで、あとは電気というケースが大半だ。
したがって、これらを電化すればオール電化になるわけで、最近は新築だけでなく、既築住宅をリフォームし、エコキュートとIHクッキングヒーターに替えてオール電化とする住宅も増えている。
また、分譲マンションや賃貸住宅、賃貸マンションのオール電化も進んでおり、東電管内では08年度末でオール電化賃貸住宅の累計件数が3万件を突破した。
家庭用エコキュートについては、各社が性能を向上させた新製品を次々に発売している。
ダイキン工業は、業界トップの省エネ性を実現した角型フルオートタイプの「ダイキンエコキュートXシリーズ」6機種を2月1日に発売した。
省エネ技術を結集することによりAPF(年間給湯効率)で3.8を実現し、同社が02年に初めて発売したエコキュートに比べ、年間給湯光熱費で5千円もの削減を達成している。
またコロナも昨年6月中旬からAPFで3.6を達成した8機種を順次発売している。
このようにエコキュートは年々効率が向上するとともに、給湯圧力の増加や節水・節電性の向上、利用者の利便性を高める機能の搭載など、多様な面から進化を続けていると言える。
●業務部門
業務用の施設とはオフィスビル・ホテル・店舗・病院・老健施設・学校・飲食店・スポーツクラブ・温浴施設などだ。
こうした施設のうち、特に大規模ビルの空調については、ヒートポンプの高効率化が著しく進展したことやCO2排出削減の観点から、ヒートポンプ技術を活用したターボ冷凍機が使われるようになっている。
ターボ冷凍機についてはこの20年間に効率が約2倍になっており、最新の機器では定格で冷却COPが6.0以上を実現している。
しかも蓄熱システムと組み合わせれば、大幅なランニングコストの低減が可能になるというメリットもあることから、こうした形での採用も多い。
一方、給湯と厨房についても電化が着実に進んでいる。
給湯については、各メーカーから多様なヒートポンプ給湯機が製品化されるようになったことで、様々な施設で使われるようになった。
ヒートポンプ給湯機とは、空調機で一般的に使われているヒートポンプを給湯に応用したもので、空気中などに無尽蔵にある熱を効率的に汲み上げることで給湯を行う機器だ。
しかも、電気をヒーターのように熱エネルギーとして使うのではなく、熱を移動させる動力源として使うため、現在の標準的な機器では、投入した1のエネルギーに対して4倍のエネルギーが取り出すことができ(エネルギー消費効率=COP4)、省エネ・省CO2になるわけだ。
業務部門でヒートポンプ給湯機を使うメリットは、この環境性に加え経済的であることだ。
高い機器効率と、電力会社による様々な料金メニューによりランニングを低減することが可能だ。
さらに空調や厨房を電化すれば、それぞれについての割引料金がある上、トータルとしてオール電化割引が適用され、ランニングコストの低減につながるわけだ。
イニシャルコストは燃焼式に比べ割高になるものの、環境負荷低減に貢献する機器であることから、国と電力会社による助成制度が設けられており、これを利用すればイニシャルコストの差額は数年で回収することができる。
業務用ヒートポンプ給湯機は現在、国内で9社が製造しており、小規模から大規模までの多様な施設に対応した製品が揃うようになった。
厨房についても、安全性操作性・快適性・経済性といったメリットのほか、衛生面での優位性が評価され、学校給食センターや病院・福祉施設、外食チェーンなど、様々な業態で採用が広がっている。
電化厨房は機器の加熱効率が高く、それだけでも省エネになるが、さらに燃焼がないことから厨房空間の換気や空調負荷を低減でき、オール電化にした場合は最大で30%の省エネが見込まれている。
●産業部門
産業用分野への電化推進の取り組みは、これまで空調などの設備が主体で、生産工程への本格的な取り組みが開始されたのは最近のことといえる。
生産工程の電化で使われるのは、省エネ性に優れたヒートポンプや制御性・即応性に優れるIHなどの技術だ。
例えば、工場では加熱・洗浄・乾燥・空調など様々なプロセスで蒸気を使用しているが、通常は工場内で使用する最も高い温度の蒸気をボイラで一括して製造し、それぞれのプロセスにおいて必要な温度に下げて利用している。
しかし、これでは配管ロスや、必要な温度との間に生じるロスなどにより、エネルギーの有効利用という面で大きな課題があった。
これに対し、加湿に蒸気を使わない気化式加湿器を、加温には高効率ヒートポンプや低温の排熱温水を利用する「蒸気レス空調システム」を採用することで、従来のシステムに比べ大幅な省エネ・省コストとCO2削減が期待できるようになった。
IHは、家庭用のクッキングヒーターが普及したことで広く一般に知られるようになったが、実は産業用としての利用は古く、これまで製鉄や鋳・鍛造用の加熱工程で利用されてきた。
加熱物自体が発熱するため加熱効率が高いことや、急速加熱ができること、周波数やコイルの形状を変えることで局所加熱ができること、表面のみの加熱を行えること―などの優れた特性がある。
最近では、こうした特性や、電気ならではの精密な温度制御性などを生かしたIH技術を、さまざまな分野に展開していくことで、製品の高品質化・差別化につなげていこうとする動きが見られるようになっている。
●運輸部門
運輸部門の電化も着実に進んでおり、EVとプラグイン・ハイブリッド車(PHV)の市場導入が始まっている。
EVについては三菱自動車が「アイ・ミーブ」、富士重工業が「ステラ」の法人向け販売を開始し、トヨタ自動車はプリウスのPHVの市場導入を昨年12月から開始した。
こうした動きに対応して、すでにEV用コンセントを駐車場に設置したオール電化マンションも造られるようになった。
EVやPHVの普及は運輸部門のCO2排出削減に貢献するが、それとともに太陽光発電で発電した電力を蓄える蓄電池の機能としても期待されるようになっている。
省エネ月間特集
□主な記事□
・省エネの現状と対策
・インタビュー/資源エネルギー庁 省エネルギー対策課長 坂本敏幸氏
・09年度省エネ大賞が決定
・ENEX2010が開催
経済産業省がまとめた08年度のエネルギー需給実績(速報)によれば、同年度の最終エネルギー消費は、主に産業部門の大幅な減少により、前年度に比べマイナス6.8%と、65年度以降、最大の減少幅を記録した。しかし、鳩山政権が掲げる20年までにCO2排出量を90年比で25%削減するという目標を達成するためには、着実に省エネルギーを進める必要がある。
さらに米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授によれば、厳しい環境規制が国際競争力を向上させるとされており、省エネの推進は日本の産業の制約要因になるのではなく、むしろ産業競争力の強化につながると考えられるようになっている。省エネ月間の2月に省エネの現状や役割、課題などに改めて注目することにした。
部門別のエネルギー消費の推移をここ30年ほどの期間で見ると、産業部門はほぼ横ばい、運輸部門が頭打ちにある一方で、一貫して増加傾向にあるのが民生部門である。民生部門はさらにオフィスビルや店舗、大学、病院などの業務部門と家庭部門に分けられるが、特に業務部門のエネルギー消費は73年から07年の間に、2.8倍に増えた。したがって、当面は、特にこの分野を中心に対策を講じる必要がある。
●ZEB
業務部門の省エネを進めるためには、二つの段階に分けて取り組むことが必要だ。まずは建物の省エネ性能をきちんと確保すること。次に正しい運用を行うことだ。
建物の省エネ性能を向上させる動きとして注目されるのが、「ZEB」の実現に向けた取り組みである。
ZEBとはゼロ・エネルギー・ビルのこと。建築・設備の省エネ性の向上や、再生エネルギーの活用などにより、年間での一次エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロまたはほぼゼロにするものだ。
資源エネルギー庁では、昨年「ZEBの実現と展開に関する研究会」を立ち上げ、11月に同研究会が「2030年までに新築建築物全体で建築物のネット・ゼロ・エネルギー化を目指すべき」との提言をまとめた。今後は、この目標に向け取り組みを進めていく方針だ。
もう一つ、建築物の省エネ性能については、ラベル制度の導入も検討されている。欧米ではすでに行われており、建築物の省エネ性能を見える化することによって不動産価値を上げるとともに、テナントのエネルギー性能の高いビルへの入居を促す考えだ。
●改正省エネ法
運用面での省エネに関する対策としては、まず今年の4月から施行される改正省エネ法がある。
従来の省エネ法では、対象となる「事業所」単位で、エネルギー消費原単位の年平均1%以上の低減に務めることが義務付けられていた。
これに対し改正省エネ法では、対象が「事業者」単位へと変更された。また一定の要件を満たすコンビニなどフランチャイズチェーンについても、チェーン全体を一体として捉え、事業者単位の規制と同様の措置を求めることになった。
これにより、業務部門の規制対象範囲が大幅に広がり、運用面での省エネが進むことが期待されている。
また、産業部門で導入しているセクター別ベンチマークの考え方を業務部門に導入することも検討されている。
セクター別ベンチマークとは、特定の事業についてエネルギー利用の合理化に関する指標を設定するもの。同業他社との省エネ対策の比較が容易になるため、省エネ性能の高いビルに対するディベロッパーの投資の促進が図られると見込まれている。
●中小ビル
業務部門でもう一つ問題になっているのが、中小規模のビルの省エネだ。
大規模なビルにはBEMS(ビルのエネルギー管理システム)が入っていたり、ビルを管理する人が専属でいたりするが、中小ビルではそうなっていない。
そこで、外部のESCO事業者やエネルギー支援サービス業者に、中小のビルを多棟管理できるインフラを構築することを検討することになり、昨年7月にビルオーナーや設備・機器メーカー、ESCO事業者などが参加したコンソーシアムが発足し、標準化の取り組みが始まった。
なぜ標準化が必要かと言えば、外部の業者が中小ビルを多棟管理するためには、中小ビルから出てくる省エネのデータが、統一的なフォーマットで、同じ項目で得られなければならないからだ。
また外から制御する時にメーカーが異なると、統一的な制御が出来ないという問題があるため、設備機器間のインターフェースを標準化することも必要だからである。
この標準化については、今年3月末をめどに取りまとめを行っているところで、国はこれを基に中小ビルの省エネを進めていく方針だ。
●家庭と運輸
住宅の省エネ対策としては、まず住宅エコポイント制度が補正予算に計上されたことから、これにより省エネ住宅への誘導を進めていくことが一つ。
次に集合住宅について、今まで断熱性能しか省エネ基準に入っていなかが、これを給湯や照明といった設備も含めた省エネ基準が作れないかということが検討されている。
さらに「平成11年基準」という住宅の断熱基準の達成率が3割程度に留まっていることから、これを向上させるため、地域の工務店の能力を底上げするなどの対策が考えられている。
また運輸については、2020年を目標年度とする新たなトップランナー基準の検討が始まっており、来春をめどに基準案が取りまとめられることになっている。
新春インタビュー
□主な記事□
・新春インタビュー●製品評価技術基盤機構 理事長 安井至氏/電力中央研究所 上席研究員 杉山大志氏
・中部電力/「音メガネ」を共同開発
・東北電力/耐震装置付き高所作業車を導入
・北海道電力/泊発電所3号機が運開
鳩山政権は、前政権が示した「20年までに05年比で155%削減する」という日本の温室効果ガス削減目標を「20年までに90年比で25%削減する」という目標へ、大きく引き上げた。
その具体的な道筋についてはまだ示されていないものの、目標達成のためには低炭素社会への思い切った舵取りが求められることは間違いない。今後、日本は国際社会の中でどのように振る舞い、どのような対策を講じていくべきなのか。
元国連大学副学長で製品評価技術基盤機構理事長の安井至氏と、電力中央研究所上席研究員の杉山大志氏に聞いた。
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