トップページ 2011年 2010年 2008年 2007年 2005年/2006年 分野別バックナンバー
注:掲載は一部です。また、役職等は掲載当時
2009年12月号 2009年11月号 2009年10月号 2009年9月号 2009年8月号 2009年7月号 2009年6月号 2009年5月号 2009年4月号 2009年3月号 2009年2月号 2009年1月号
エネファーム
□主な記事□
・エネファームの特長と意義
・インタビュー●燃料電池普及促進協会(FCA) 事務局長 真瀬隆哉氏/東京ガス リビング企画部 エネファーム推進プロジェクトグループ マネージャー 本荘崇久氏
・Jパワー●石炭火力への取り組み
・連載●業務部門で進むヒートポンプ給湯機の利用(第2回)
都市ガスやLPガスを燃料として家庭で発電し、その際に発生する熱を湯として利用する家庭用燃料電池「エネファーム」が5月1日から順次発売され、着実に導入が進んでいる。
エネファームは一次エネルギーの利用効率を70〜80%に向上させ、従来システムに比べCO2排出量を30〜40%削減できることから、家庭部門における温暖化対策の1つとして普及が期待されている。
普及拡大の課題とされている価格についても、国が設置者に対し140万円の補助金を交付する助成措置を講じており、普及の進展とともに低減していくものと見込まれている。
世界で初めて家庭向けに実用化された燃料電池であるエネファームに注目した。
エネファームは固体高分子型燃料電池(PEFC)を利用した家庭用のコージェネレーションシステム。発電と同時に発生する熱を利用することで、エネルギーを有効利用できるのが特長だ。さらに再生可能エネルギーである太陽光発電(PV)システムと組み合わせた「ダブル発電」とすることで、一層の環境性の向上とランニングコストの削減が期待できる。
●PEFC
●
燃料電池とは酸素と水素を化学反応させて、電気と水を取り出す仕組みのこと。
エネファームは、天然ガスやLPガスから取り出した水素を、空気中の酸素と化学反応させて電気を作るとともに、発生する熱を利用して給湯も行う。このためエネルギーを有効活用できる。
さらに水素と酸素の化学反応では、電気と熱以外に水しか生成しないので、クリーンであることも特長だ。
エネファームで使用しているPEFCの具体的な仕組みは、まず各家庭に供給される天然ガスやLPガスを、燃料処理装置(改質器)で取り出した水素は燃料電池に送られ、電極(燃料極)上に塗布された触媒の作用で水素イオンと電子に分かれる。この電子が回路を流れることで電流が生まれるわけだ。
水素イオンは、電解質(固体高分子膜)を通り、別の電極(空気極)上に塗布された触媒の作用で酸素との化学反応によって水を生成する。
化学反応の際に熱が発生するが、これを給湯に有効利用することができる。更に、PEFCは70〜90度と他の燃料電池に比べ作動温度が低温であり、起動停止が容易であることから、家庭用や自動車、携帯電話といった小規模の用途に適している。
●環境・省エネ性
エネファームの出力は1キロワット程度で、発電効率は30〜40%。発電した電気とともに発生した熱で湯を沸かし給湯に利用することから、一次エネルギーの利用効率は70〜90%になる。
このため、従来システムに比べCO2排出量を30〜40%削減することが可能だ。
また一般家庭における他の省エネ行動と比較した場合、例えば長時間不使用時は電気ポットのプラグを抜くと年間48キログラム、アイドリングストップを心がけると同40キログラムのCO2排出削減が行えるが、エネファームを設置すれば同1,200キログラムのCO2を削減できることから、家庭での省エネ行動としてもエネファームの導入効果は大きいと言える。
さらに、エネファームのリモコンには「エネルック」ボタンが付いており、ボタンを押すだけで電気・湯・水などの使用量や金額が分かるようになっている上、データが記録されるので使用状況の推移の確認ができ、利用者の省エネ意識の向上に役立っている。
もう一つ注目されているのが、再生可能エネルギーであるPVシステムを合わせて設置する「ダブル発電」だ。
東京ガスの試算によれば、戸建て住宅で4人家族の場合、エネファームと4キロワットのPVシステムを設置すると、エネファームで年間約1.5トン、PVで同約2.7トン、合計約4.2トンのCO2削減効果がある。
これをブナを主体とする天然林の吸収量に置き換えると、約9,100平方メートルのブナ林が1年間に吸収するCO2の量に相当するという。
またダブル発電とすることで、ランニングコストの削減にもつながる。ダブル発電では、まずエネファームで発電した電気が優先的に家庭で使われ、PVで残りの電力需要を賄うことになる。
このため、PVのみの設置に比べて売電量が増えるわけだ。
11月1日からスタートした新しい太陽光発電の余剰電力買取制度では、ダブル発電の場合、来年3月31日までに設置の申し込みを行い、6月30日までに買取りを開始すると、家庭用では1キロワット時当たり39円で10年間にわたって買取ってもらえることになっている。
●国の支援
家庭用燃料電池の実用化に当たっては、国が積極的に支援を行ってきた。
99年に政府が発表した「ミレニアムプロジェクト」の中で、地球温暖化防止のための次世代技術として、燃料電池を開発・導入する方針が打ち出された。
その後、02年の小泉首相(当時)の施政方針演説で家庭用燃料電池を3年以内に実用化することを目指すことが示され、02〜04年度に定置用燃料電池「実証研究事業」、05〜08年度には同「大規模実証事業」が新エネルギー財団(NEF)により行われた。
特に大規模実証事業では、北海道から沖縄にかけての全国で、累計3,307台の家庭用燃料電池が設置され、その成果が実用化に向けての技術開発に反映された。
その後、07年に取りまとめられた「クールアース・エネルギー革新技術計画」でも、重点的に取り組むべきエネルギー革新技術の1つとして、定置用燃料電池が選定されている。
さらに今年度からは、普及を促進するため「民生用燃料電池導入支援事業」がスタートし、設置者に対し、上限で140万円の補助金が交付されるようになった。
今年度の普及台数は4千〜5千台と見込まれており、大阪ガス管内では、すでに1千台を突破した。
経済産業省の長期エネルギー需給見通しの「最大導入ケース」によれば、家庭用燃料電池を含めた家庭用コージェネレーションシステムの普及台数は、2030年に250万台が見込まれている。
これがすべてエネファームだとすると、年間300万トンのCO2削減効果がある。これは東京都の2.5倍、四国の3分の1の面積に相当する5,500平方キロの森林が1年間に吸収するCO2と同量であり、地球温暖化防止に大きく貢献することになる。
エネファーム
エネファームが「第6回エコプロダクツ大賞」のエコプロダクツ部門で「環境大臣賞」を受賞した。
東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、新日本石油、パナソニック、東芝燃料電池システム、長府製作所、ENEOSセルテックが11月24日に共同で受賞し、発表した。
エコプロダクツ大賞は、環境負荷の低減に配慮したすぐれた製品・サービス(エコプロダクツ)を表彰するものだ。
これにより、エコプロダクツに関する情報を需要者サイドに広く伝えるとともに、エコプロダクツの供給者である企業などの取り組みを支援することで、日本におけるエコプロダクツのさらなる普及を図ることを目的に創設された。
主催はエコプロダクツ大賞推進協議会。エコプロダクツに関わりの深い、地球・人間環境フォーラム、産業環境管理協会、交通エコロジー・モビリティ財団、日本有機資源協会の4者により04年に設立された。
エネファームの受賞については、CO2削減に向け日本が今後、重点的に取り組むべき21の技術を選定した「クールアース―エネルギー革新技術計画」の1つに選定された革新的技術を有している点や、10年相当の長期にわたって無償定期点検と故障修理を行うなどアフターサービスを充実させていること―などが高く評価された。
□主な記事□
・東京モーターショー2009
・東京電力●電気自動車への取り組み
・新連載●業務部門で進むヒートポンプ給湯機の利用
・電力中央研究所フォーラム2009
低炭素社会づくり行動計画では、排出量の約2割を占める運輸部門からのCO2を削減するため、現在、新車販売のうち約50台に1台であるエコカーの割合を、2020年までに2台に1台にするという野心的な目標を示している。
そうした中、開催された今年の東京モーターショーは、ハイブリッド車や電気自動車のような次世代エコカーに加え、ハイブリッド車並みに燃費を向上させたガソリン車が出展されるなど、かてつないほどエコカーが中心になっていた。
エコカー減税の効果もあって、すでにプリウスが国内の車種別自動車販売で首位となり、電気自動車の一般向けの販売が来年から始まるなど、エコカーが自動車の主役になっていると言えるだろう。
「東京モーターショー2009」は10月24日〜11月4日に千葉市の幕張メッセで開催された。41回目を迎えた今回のテーマは「クルマを楽しむ、地球と楽しむ」。例年に比べ欧米メーカーの出展が少なかったが、これまで以上に自動車のCO2排出削減が求められる中で、日本の各社は最新のハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、超低燃費のガソリン車などの「次世代エコカー」を提案していた。
●ハイブリッド車
プラグインハイブリッド車(PHV)を含むHVはすでに普及段階にあることから出展が多く、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、三菱自動車、スズキの各社が多様な車種を提案した。
プリウスで他社に先行するトヨタは、新たなHVとしてプリウスのPHV、ミドルクラスの新型車「サイ」、高級車ブランドであるレクサスの5ドアハッチバックのコンセプトモデル「LF―Ch」を披露した。
プリウスのPHVは3代目プリウスをベースにしたコンセプトモデル。同社の駆動用バッテリーに初めてリチウムイオン電池を搭載し、家庭用電源などの外部充電を可能にした。
コンセプトモデルでは、1リットル当たり55キロ以上の燃費、満充電でのEV走行距離20キロ以上を目標とし、100ボルトで約180分、200ボルトで約100分の充電時間を目指している。
同社では、展示されたものとはベース車が異なるプリウスPHVを、今年末から日米欧でリース販売する予定だ。
サイは12月7日に発売する市販車で、2.4リットルハイブリッドシステムの搭載により、コンパクトカー並みの1リットル当たり23キロの燃費を実現した。さらに、カーボンニュートラルの植物資源が原料のエコプラスチックを室内表面積の約60%に採用することで、環境負荷を低減している。
一方、インサイトが好調のホンダはスポーツHVの「CR-Z」とミニバンHVの「スカイデッキ」のコンセプトカーを発表した。
CR-Zは1.5リットルエンジンを搭載したHV初の6速マニュアル車。コンセプトモデルをベースとした市販車を来年2月に販売する予定だ。
スカイデッキは6シートすべてに軽量薄型シートを採用することで燃費の低減を図っている。
日産は大型セダンでありながらコンパクトカー並みの燃費を目指す「フーガ」のHVコンセプトモデルを出展。来年秋に発売する予定だ。
そのほか、富士重工は将来のグランドツーリングカーのコンセプトモデルである「スバル・ハイブリッド・ツアラー」、三菱自動車はPHVのスポーツ用多目的車のコンセプトカー「PXミーブ」、スズキはスイフトPHVのコンセプトカーを出展していた。
●電気自動車
EVについては、すでに法人と自治体向けにリース販売を開始している三菱自動車と富士重工に加え、日産、トヨタ、ホンダが開発を進めている。
来年から個人向けにも「アイミーブ」を販売する三菱自動車は軽規格のバン「アイミーブ・カーゴ」を出展。
日産は、来年度後半に世界で販売を開始する「リーフ」のほか、新しい発想のEVとして前後に2人が乗るコンセプトカー「ランドグライダー」を出展した。
リーフは1回の充電で160キロ以上の走行ができ、家庭用の200ボルト電源につなげば8時間で充電できる。また外出先での急速充電では10分間で約50キロ、20分で約100キロの走行が可能だ。
一方、ランドグライダーはバイクのようなスリムな車体で、コーナーリングの際、ハンドルを切る角度とスピードをセンサーが測定し、バイクのようにタイヤと車体が傾くのが特徴だ。
トヨタのEVは小型の「FT-EV2」。IQよりコンパクトなボディに4人の乗車が可能な超高効率パッケージとなっている。
最高速度100キロ以上、満充電で日常の使用に十分な90キロ以上走ることが可能だ。同社は12年に燃料規制が強化される米国でEVを販売する予定である。
ホンダもやはり4人乗りの小型の「EV-N」を出展。電力消費を削減するため軽量化を追求し、シートも100%リサイクル可能な薄型軽量シートを採用している。
また自動車ではないが、ヤマハ発動機は電動オートバイの「EC-03」「EC-f」「EC-fs」を参考出品していた。
●ガソリン車
ガソリン車でモーターアシストを使わずに著しく燃費を向上させたコンセプトカーを出展したのはマツダとダイハツ工業である。
マツダの「清(きよら)」は次世代直噴ガソリンエンジン「マツダSKY-G」を搭載したコンパクトカー。
このエンジンは、膨張比や燃焼期間、吸気容積制御などを改善することにより従来に比べ約15%燃費を改善。これに次世代オートマチックトランスミッション「マツダSKY-Drive」を組み合わせることなどで、HV並みの1リットル当たり32キロという超低燃費を実現した。
一方、ダイハツの軽自動車「e:s」(eco&smart)は、車体のコンパクト化に加え、超薄型軽量シートの採用や各部材の徹底した軽量化により、車両重量を700キロに抑制。
独自の燃焼制御システムとEGRを組み合わせ、アイドリングストップシステムを搭載することで、1リットル当たり30キロの低燃費を記録している。
原子力の日 記念号
□主な記事□
・インタビュー「さらなる推進へ向けて」筑波大学大学院 システム情報工学研究科リスク工学専攻 教授 内山 洋司氏/あすかエネルギーフォーラム 理事長 秋庭 悦子氏
・プルサーマル始動へ
・日本原子力研究開発機構●原子力関連技術を地場産業へ
・インタビュー「科学コミュニケーションの今後」東京大学大学院 理学系研究科・理学部 准教授 横山 広美氏
供給安定性と経済性に優れた準国産エネルギー源である原子力は、発電過程でCO2を排出しない低炭素電源の中核として、これまで以上に大きな役割を担うことが求められるようになっている。その一方で、日本では設備利用率が主要利用国に比べて低いことや、高レベル放射性廃棄物処分地の選定が進まないなど、解決すべき課題が多いのも事実だ。
こうした中、経済産業省は6月、原子力部会の議論を踏まえて「原子力発電推進強化策」を取りまとめ、既設炉の高度利用や新増設・リプレースの円滑化、核燃料サイクルの推進などを提示した。新政権が掲げる温室効果ガス削減の中期目標を達成するためにも原子力の推進は重要であり、同強化策に示された内容を実現していくことが必要だ。
地球温暖化防止とエネルギー供給の安定化を図るため、脱原子力を掲げてきた国々が原子力推進に向けて政策を転換するなど、世界的な「原子力ルネッサンス」の動きは確かなものになりつつある。エネルギーのベストミックスの観点から、日本はこれまで着実に原子力を推進してきたが、低炭素社会を実現するためにはさらに導入を拡大していくことが必要だ。
■世界の動き
日本原子力産業協会がまとめた今年1月1日現在のデータによると、世界で運転中の原子力発電所は432基(3億9044万4千キロワット)。建設中は15カ国で52基(4775万キロワット)で、これは日本の運転中の原子力とほぼ同じ数量だ。
世界の主な動きをピックアップしてみると、欧州では、脱原子力政策を取ってきたスウェーデンとイタリアが原子力推進に向けて政策を転換。米国では、昨年から今年にかけて30年ぶりに4件の新規発注があったほか、建設を中断していた1基の工事を再開した。
アジアでは、インドが現在の約400万キロワットを32年に6300万キロワットとする計画を示し、中国は現在の約900万キロワットを20年に4千万キロワットに増強するとしていた計画を、7千万キロワットに上方修正した。
また、アラブ首長国連邦がわずか2年で具体的な開発計画を策定したほか、ヨルダンやカザフスタンなどは自国のウラン資源を活用した原子力の導入を探るようになっている。
■日本の動向
日本では現在53基(4973万5千キロワット)が運転中で発電電力量の約3割を占めており、さらに3基が建設中、12基が計画中だ。
建設中は北海道電力・泊発電所3号機(PWR、91万2千キロワット)と中国電力・島根原子力発電所3号機(ABWR、137万3千キロワット)、電源開発・大間原子力発電所(フルMOX―ABWR)である。
泊3号機は1月から試運転を行っており、12月に営業運転を開始する予定。島根3号機は11年12月、大間は14年11月に運転を開始する予定だ。
また日本原子力研究開発機構は、高速増殖原型炉「もんじゅ」(28万キロワット)の運転を今年度内に再開する方針を示している。
一方、新増設やリプレースの動きとしては、中部電力が浜岡原子力発電所1、2号機を1月に廃止して6号機(ABWR、140万キロワット級)を建設する計画を策定。九州電力は川内原子力発電所の3号機(APWR、159万キロワット)の増設について、1月に地元に申し入れを行った。
さらに使用済燃料から回収したプルトニウムを、ウラン燃料と混合してつくったMOX燃料を軽水炉で使用する「プルサーマル」が今年度からスタートする。
電気事業連合会では15年度までに全国の16〜18基の原子炉で実施する計画を示しており、第1号として、九州電力が玄海原子力発電所3号機で12月から実施する予定。四国電力・伊方発電所3号機、中部電力・浜岡原子力発電所4号機でも実施に向けて準備を進めている。
■推進強化策
原子力に関する国の政策目標として、05年に閣議決定された原子力政策大綱では「2030年以後も総発電電力量の30〜40%程度以上の供給割合を原子力発電が担う」との方針が示されている。
また6月にまとめられた「原子力発電推進強化策」では、低炭素社会づくり行動計画(08年)の「2020年をめどに原子力をはじめとする『ゼロ・エミッション電源』の割合を50%以上とする」方針や、麻生政権の温室効果ガス排出削減の中期目標を達成するには、原子力発電の比率を20年時点で40%程度とする必要があるとの認識を示している。
こうした目標の達成や、鳩山政権が温室効果ガス排出削減の中期目標を引き上げていることを考えると、今後も原子力を着実に推進していくことが不可欠で、そのためには同強化策に沿って取り組みを進めることが必要だ。
■既設炉
同強化策では「既設炉の高度利用」「新増設・リプレースの円滑化」「核燃料サイクルの推進」「国民との相互理解の促進」「地域共生」「国際的課題への対応」の6項目に分けて具体的な取り組みを提示している。
このうち既設炉の高度利用とは、設備利用率を向上させることだ。
日本の原子力の設備利用率は、90年代後半は80%台で推移していたが、いくつかのプラントで生じた不正やトラブル、自然災害などにより国の定期検査期間が長期化したことなどで、02年以降は低迷。特に07年7月の新潟県中越沖地震で東京電力の柏崎刈羽原子力発電所が全号停止したこともあって、08年の設備利用率は58%にまで低下した。
ちなみに、米国や韓国はこの10年ほど90%程度を維持している。
設備利用率の低下は、CO2排出量の抑制に大きく影響する。資源エネルギー庁によれば、07年度の設備利用率が98年の水準(84.2%)だったと仮定すると、07年度のCO2排出量は、実績より6300万トン(90年比で5%)少なかったという。
設備利用率を向上させるための具体策として、強化策では、事業者の品質保証活動の充実強化、今年1月から導入した新検査制度への円滑な対応、運転中保全の導入拡大、出力の向上を挙げている。
このうち新検査制度は、これまですべての発電所で一律に行われてきた検査の仕組みを改め、プラントの特性に応じてきめ細かな検査や、経年劣化の評価を行うことにしたものだ。
さらに日常の保全活動を充実することで、原子炉を停止して行う定期検査を従来の1年に1回から2年に1回へと減らすことを可能にした。
一方、運転中保全とは、現在プラントの停止中に行っている一部の機器の予防保全を運転中に行うことで、停止時に集中していた保全作業を平準化すること。すでに米国では十分な実績があり、作業の質の向上が期待できる。
こうした取り組みにより、主要利用国並みに設備利用率を向上させることを目指している。
■新増設
建設中の3基を含め、18年度までに9基の運転開始が予定されているものの、原子力の利用を拡大するには、30年前後に本格化することが見込まれているリプレースを視野に入れながら、新増設を進める必要がある。
そのため強化策では、使用済燃料の処理・処分費用など原子力特有の投資リスクを低減・分散し、原子力発電の運用に柔軟性を持たせるなど、原子力発電投資の環境整備の必要性を指摘している。
具体的には、原子力の柔軟な運用では原子力発電の比率の高まりに応じて生じることが見込まれる、正月など一時的に需要が落ち込んだ場合の定格出力以下での運転や、1日の電力需要の変動に合わせて出力を調整する運転などを実施・検討するとしている。
ただし、こうした運転方法については、原子力が発電電力量の約8割を占めるフランスでは、すでに電力需要に応じて出力を低下させる負荷追従運転を取り入れており、日本でも起動時や設備の調整時などに定格出力以下での運転を行っているため、技術上・安全上、特に新しいことではない。
環境整備については、第二再処理費用の料金原価算入や廃止措置の検討、計画から運転開始までのリードタイムの短縮などを求めている。
第二再処理費用とは、現在試運転中の六ケ所再処理工場で再処理しきれない使用済燃料を再処理するための施設の費用のこと。
現在、その費用は具体的な計画が固まるまでの暫定措置として、企業会計上の引当金として積み立てられている。しかし、本来は料金原価に算入すべき性質のものであることから、その検討を行うとしている。
■核燃サイクルなど
そのほか強化策では、核燃料サイクルの推進をめぐり、六ケ所再処理工場の操業に関して「スケジュールありきではなく、安全を最優先にガラス固化試験の課題解決に向けて全力で取り組む」方針を提示。
使用済燃料の中間貯蔵については「核燃料サイクル全体の運営に柔軟性を付与する手段として重要」との認識を示し、貯蔵施設の立地・整備に国・事業者が一体となって取り組むことを強調している。
またプルサーマルに関しては、可能な限り早期の実施に向けて業界を挙げて取り組むこと、高レベル放射性廃棄物処分事業についても、文献調査を早期に、できるだけ多くの場所で行うことを求めている。
さらに国民との相互理解の促進では、国が前面に立ってメッセージを発信すること、地域共生については、必要に応じて電源三法交付金のあり方を検討することなどを提示している。
□主な記事□
・太陽光発電の導入拡大へ
・専門家に聞く●東京工業大学 教授 小長井 誠氏/太陽光発電協会 事務局長 岡林 義一氏/太陽光発電所 事務局長 都筑 建氏
・集中連系の課題と展望
・クリーン・コール国際会議
新エネルギーの中で今最も注目を集めているのが太陽光発電だ。2005年以降、日本は太陽光発電の導入量世界一の座をドイツに明け渡したままだ。
しかし昨年7月の「低炭素社会づくり行動計画」で、20年をめどに「ゼロ・エミッション電源」の割合を50%以上とし、太陽光発電については世界一の座を再び獲得することを目指して導入量を20年に10倍、30年に40倍とする方針が打ち出された。
さらに4月には政府・与党会議と経済対策閣僚会議の合同会議が公表した「経済危機対策」で、太陽光発電の導入目標は「20年頃に20倍程度」へと引き上げられ、補助金や導入支援の拡充、余剰電力買取制度の創設などの対策が打ち出され再び活況を呈するようになっている。
太陽光発電をめぐる国内の環境は、この1年で激変した。05年度で住宅用太陽光発電システムの設置補助制度が終了した後、目立った導入促進策がなかったため、太陽光発電導入量の伸びは鈍化していた。しかし、昨年7月の「低炭素社会づくり行動計画」と今年4月の「経済危機対策」で太陽光発電の導入目標が大幅に引き上げられ、その対策として住宅用の設置補助制度が復活したことや、新たに太陽光発電の余剰電力に関する買取制度が創設されたことなどから、再び大量導入への環境が整ったと言える。
資源エネルギーの資料によれば、国内の太陽光発電の導入量は、07年度で約192万キロワット。これに対し、ドイツは約386万キロワットで、05年に導入量でドイツが日本を抜いてから、その差は開く一方だ。
経済機器により、やや停滞しているとは言え、他の欧州諸国や中国、韓国でも導入量が急増している。こうした国々では、太陽光発電による電力を、発電コストを上回る価格で、長期にわたって電力会社や系統運用者に買取ることを義務付けた固定価格買取制度を導入しており、これが導入のインセンティブにつながっている。
太陽電池の生産シェアについては、日本は99年に生産量世界一になって以降、世界トップを維持しているものの、かつてはシェアの半分を占めていたのに対し、07年は約4分の1にまで低下した。
これは、日本のメーカーを上回るスピードと集中投資で中国やドイツ、米国などのメーカーが事業を拡大したためだ。
このように、ここ数年、日本の太陽光発電は導入・生産とも、かつての勢いが影をひそめていた。
しかし、低炭素社会づくりを目指す中で、再生可能エネルギーの中でも特に潜在的な利用可能量が多いこと、経済危機の中で産業政策面からも太陽光発電産業を拡大することが重要だと認識されたことから、改めて太陽光発電の導入拡大と、太陽光発電産業の競争力の維持・競争力強化が図られるようになった。
目標の引き上げ
導入拡大については、低炭素社会づくり行動計画で、20年度に、05年度の導入量である約142万キロワットの10倍の1400万キロワット、30年度には約40倍の5300万キロワットが目標として掲げられた。
さらに経済危機対策では、20年の目標を現状の20倍程度の約2800万キロワットに引き上げている。
これらの目標を達成するため、打ち出されたのが国の住宅用太陽光発電システムの導入補助事業の復活や、余剰電力の買取制度の創設、学校のエコ改修として太陽光発電の導入促進などを図る「スクール・ニューディール構想」を始めとする各省連携の太陽光アクションプランの実施などだ。
こうした対策による需要拡大に伴う量産効果と技術革新により、3〜5年以内に発電コストを現在の1キロワット時当たり50円弱から、半分程度の水準に低下することが期待されている。
住宅用設置補助
国による最初の住宅用太陽光発電システムの設置補助は、新エネルギー財団(NEF)が窓口になり94〜05年度にかけて実施された。
これは、住宅用太陽光発電システムの設置者に対して直接、補助を行うもので、当初は補助金が設置価格の半額程度を占めていたが、設置価格が下がるのに伴って減額され、05年度には1キロワット当たり2万円にまで下がっていた。
これにより、住宅用太陽光発電システムの累積導入量は、94年度の2千キロワットから05年度には約112万キロワットにまで拡大し、全導入量に占める住宅用の割合が約8割となった。
また、1キロワット当たりの価格も94年度の200万円から05年度には66万円に、1キロワット時当たりの発電コストも140円から46円にまで低減した。
新しい補助制度は、08年1月にスタートし、太陽光発電協会が窓口となって実施している。同協会ではこの事業を実際に行う組織として「太陽光発電普及拡大センター(J―PEC)」を設立。補助金交付申請の受付や審査と交付決定の通知、補助金額の決定と支払いなどを行っている。
補助金額は1キロワット当たり7万円。昨年度は1月13日から3月31日まで受付を行い、この間に約2万2500件の申請があった。
今年度は8月31日現在、約4万600件の申請を受理している。
余剰電力買取制度
設置補助事業以上に注目されているのが余剰電力買取制度の創設で、日本版固定価格買取制度と言える。
これは、一般電気事業者に太陽光発電の余剰電力の買い取りを義務付ける制度だが、ドイツなどのように発電電力の全量を買い取ることを義務付けているのと異なる点が日本版と言われるゆえんだ。
11月1日から実施することになっており、買取期間は10年、住宅用については初年度の買取価格が1キロワット時当たり48円となる。これは現在実施されている一般電気事業者による「余剰電力買取メニュー」の2倍程度に相当し、すでに設置している住宅にも適用される。
2年度目以降に設置した場合の買取価格については、導入状況や市場価格なの推移などを見極めながら低減させていく方針。3〜5年以内に太陽光発電システムの価格を半額程度にすることを目指すという観点から、2年目は42円/キロワット時をめどに国の委員会で検討する予定だ。
また、自家発電設備などを併設する「ダブル発電」の場合は、その分を減額して、初年度の買取価格は39円/キロワット時となる。
ちなみに非住宅用の初年度の買取価格は24円/キロワット時、自家発電設備を併設する場合は20円/キロワット時だ。
一方、この買取費用の負担については、国民の「全員参加型」の制度という観点から、すべての需要家が使用量に応じて広く薄く負担することになっている。
この結果、標準家庭の負担額は導入当初で月額約30円、5〜10年目には約45〜90円になることが見込まれている。
学校への導入
スクール・ニューディール構想は、経済危機対策の中で示されたもの。学校の耐震化、ICT化と並んで、エコ化の手段として太陽光発電の導入拡大を推進することになった。
学校における太陽光発電の導入の効果としては、環境・エネルギー教育に活用できるほか、再生可能エネルギーの積極的活用、CO2削減効果、学校の電気代の節約が挙げられている。
スクール・ニューディール構想には今年度の補正予算として1兆1181億円を計上。公立の小中学校の場合、事業費の平均95%を国が負担することなどにより、自治体は事業費の2.5%を負担するだけで太陽光発電を導入することが可能になっている。
こうした措置により、公立小中学校約3万2千校のうち、早期に現在の10倍となる1万2千校に設置をすることを目指している。
ただし、現場としては耐震化の方が優先順位が高いことから、太陽光発電の導入は早急には進みそうもないという見方もある。
産業の拡大・強化
これまで太陽光発電については、主としてエネルギー政策の観点から推進してきたが、経済危機を背景に、産業政策の観点からも拡大・強化が図られることになり、経済産業省は3月に「ソーラー・システム産業戦略研究会」報告書を取りまとめた。
報告書では「供給サイドの取り組み」「需要サイドの取り組み」「制度環境の整備」を示した。
このうち供給サイドの取り組みでは、産学官連携による革新的な研究開発、耐久性・性能などの評価指標・評価手法の確立などにより、競争力を強化する。
また「グッド・パリティ」(太陽電池の発電コストが低下し、系統電力と価格面で同等となった状態)の実現に向け、太陽電池メーカーの努力に加え、原料となるポリシリコンの安定的な調達、パワーコンディショナーや架台などの付属機器の低価格化、物流・販売・施工段階のコスト低減の取り組みを一体として進める。
次に需要サイドの取り組みでは、積極的に国内・海外市場への展開を図る。海外市場については、太陽光発電システムを輸出するだけでなく、蓄電池などの関連機器の製造業者や電気事業者、商社など「産業間連携」を通じたコンソーシアムとして展開する。
また今後、太陽光発電の電力を蓄電して家庭で必要な時に利用したり、電気自動車の動力で使うようになると、他の機器との接続まで含めてシステムを提案する必用が出てくる。そのため、設計・施工・保守管理までを一括で手がける「システム・インテグレーター」を育成する。
制度環境の整備に関しては、工場立地や都市計画における太陽電池のあり方を検討するほか、海外の認証制度との連携や、中古市場とリサイクルシステムの構築、シリコンなどの原材料の安定確保に努める。
こうした取り組みを実施することで、中長期的には現在、世界の太陽電池セル生産量で4分の1にまで低下したシェアを、20年に3分の1以上に引き上げることを目指しており、これによる太陽光発電関連の経済効果を最大で約10兆円、雇用規模が最大で約11万人になると予測している。
□主な記事□
・水力発電の現状と推進への課題
・インタビュー●新エネルギー財団(NEF) 常務理事 山田明彦氏/東京発電 常務取締役 古矢千吉氏
・未利用水力の活用事例
・九州電力●「みらいの学校」を展開
エネルギー自給率が4%と低水準にある日本にとって、発電電力量の約7%を占め、しかも純国産の非化石エネルギーである水力発電を活用することは、エネルギーセキュリティの観点からも、また低炭素社会の実現を目指す上でも重要だ。
しかし新規開発については地理的に困難であることや小規模で開発コストが割高になることなどから、あまり開発が進んでいない。
また既設の水力発電所は老朽化が進んでいるため、設備の更新が求められるようになっているものの、経営の効率化を迫られている事業者にとって、それが大きな負担となっている。
貴重な国産エネルギーを活用していくには何が必要なのか。水力発電の現状や課題を探った。
かつては「水主火従」と言われ、日本のエネルギー供給の主力だった水力発電。現在は、貴重な国産エネルギーとして、また発電の過程で水を消費せず、CO2を発生することもないクリーンな再生可能エネルギーとして活用が望まれるようになっている。しかし、新規開発のための採算性や既設発電所の老朽化など課題は多い。
■水利用での分類
水力発電と一口に言っても、水の利用法やダムの形式などにより、様々なものがある。
水の利用法では「貯水池式」「調整池式」「流れ込み式」の3種類がある。
貯水池式も調整池式もダムを造って川の水をせき止めるが、貯水池式が長期間の運転を、調整池式が短期間の運転を維持するための水量をためるという違いがある。
貯水池式は水量が豊富で電力消費が比較的少ない春や秋に水をため、夏や冬に利用する。調整池式は電力需要の少ない夜間や週末に水をため、消費量に応じて水量を調整しながら発電する。
流れ込み式は自流式とも言われ、川の水をためずにそのまま発電に利用する。
これらが一般水力発電と呼ばれるのに対し、1日の電力需要の変化に対応する方式として「揚水発電」がある。
これは電力負荷平準化のために使われるもので、上下2つの池と発電設備から成り、夜間の余剰電力を利用して上池に水を汲み上げ、昼間のピーク時に下池に水を落として発電する。
■構造による分類
構造による分類では、「ダム式」「水路式」「ダム水路式」の3つがある。
水力発電は水が落下するエネルギーを使って発電することから、落差と水量が大きければ大きいほど、大きな出力を得ることができる。
ダム式はダムで川をせき止めて池を造り、ダムの直下にある発電所との落差を利用して発電を行う。
水路式は川の上流に低い堰(取水堰)を設けて水を取り入れ、十分な落差が得られる場所まで水を導いて発電を行う。
ダム水路式は、ダム式と水路式を組み合わせることで、それぞれを単独に使う場合に比べてより大きな落差を得ることができる。大規模発電所で採用されており、日本最大のJパワー・奥只見発電所(福島県、56万キロワット)や、関西電力・黒部川第四発電所(富山県、33万5千キロワット)などはこの方式である。
ちなみに、ダム式は貯水池式と調整池式、水路式は流れ込み式、ダム水路式は貯水池式・調整池式・揚水式で使われるのが一般的だ。
■特徴
日本では、1891年に初の事業用水力発電所として関西電力の蹴上発電所(京都市)が運転を開始して以来、60年代半ば頃までは電力供給の半分以上を担っていた。
その後、電力需要に対応するため火力発電所が多く造られ、「火主水従」の時代となった。
オイルショック後は電源のベストミックスをめざし、原子力の利用などエネルギー源の多様化が進む中で、相対的に水力の設備容量と発電電力量のシェアは低下してきた。
だが、最近は地球環境問題への関心が高まる中で、改めて見直されるようになってきた。
水力発電の特徴は何よりも純国産の再生可能エネルギーであるということだ。現在、日本の再生可能エネルギーによる発電電力量の8割近くが水力である。
建設費が発電原価の8割程度を占め、投資回収期間が長いという面はあるものの、燃料が不要なことから変動費の比率が低く、長期に安定して運転でき、電気料金の安定化に貢献している。
さらに、揚水発電のように電力負荷平準化に寄与するほか、短時間で発電を開始でき、出力の調整も容易なため、需要変動に素早く対応して電力品質の安定に貢献するというメリットもある。
07年度末現在、日本には合計2069万キロワットの一般水力の発電設備があり、年間の発電電力量は698億キロワット時で、発電電力量の6.8%を占めている。
■新規開発
新規の開発については、国の調査によれば、日本には現在、約2700カ所、合計約1200万キロワットの開発可能地点が残されている。
ただし、その85%が1千〜3万キロワットの中小規模であり、しかも山間の奥地にあって採算性が低いことや、国立・国定公園内にあることなどから、開発が行われている地点はほとんどないのが現状だ。
一方、1千キロワット以下の水力については新エネルギーに位置付けられ、最大で建設費の50%が国から補助されるため、既設ダムの河川維持用水や上下水道、農業用水、工業用水などの未利用落差を利用した小規模水力が建設されるようになってきた。
例えば、市町村などが地域振興と地域の未利用エネルギーの開発を目的に、自家消費型の小水力発電を開発する「ハイドロバレー計画」というものがある。
同計画では、経済産業省の委託を受けた新エネルギー財団(NEF)が市町村などの要請により、毎年20地点以上で可能性調査を行っており、国の支援措置の強化と相俟って、毎年着実に建設に結び付く地点が増えてきている。
■既設水力
既設水力については、今年4月現在で、建設後60年を経過している発電所が全体の48%を占め、2030年には76%に達するとされている。つまり、既設の設備がどんどん古くなっていくということだ。
こうした設備については更新や保守工事が必要だが、電力自由化の拡大により事業者の投資に対する姿勢が慎重になっている中で、それが繰り延べされることが懸念されている。
しかしながら、我が国の貴重な国産エネルギーである水力発電を維持管理して、老朽化した水力発電を延命することは非常に重要である。
また、河川環境を改善するため、国土交通省が88年に制定した「発電水利権の期間更新時における河川維持流量の確保について」(発電ガイドライン)により、河川において、電気事業を営むものには、一定水量を河川維持流量として放流することが義務付けられた。
すでに対象となる発電所の約8割で実施され、これにより清流は回復した。しかし、その水量を発電に利用できたとすれば、年間約150万トンのCO2削減となる。このように、環境とエネルギーの適切なバランスを築くことが、重要な課題になっている。
経済産業省の「水力発電に関する研究会」が昨年7月にまとめた中間報告によれば、2030年度までの水力発電電力量の増加ポテンシャルは、約70億キロワット時と見込んでいる。これを実現するには、やはり新規開発と既設水力の円滑な設備更新が不可欠だ。
□主な記事□
・対談●日本冷凍空調工業会 専務理事 岸本哲郎氏/日本冷凍空調学会 会長 片倉百樹氏
・寄稿●ヒートポンプ・蓄熱センター 理事長 小宮山宏氏
・導入事例と最新システム
・「再生可能エネルギー世界フェア2009」開催
日本は世界全体の温室効果ガスの排出量を50年までに半減するという長期目標を国際的に提案するとともに、日本としては同年までに現状から60〜80%削減することで低炭素社会を目指すことを表明している。
その実現には、革新的技術の開発、すでに実用化されている省エネ型の製品や機器などの普及が必要だが、中でもキーテクノロジーの1つとして挙げられるのがヒートポンプだ。
ヒートポンプは「クールアース―エネルギー革新技術計画」で、現状に比べ30年に効率を1.5倍、50年には2倍とする目標が示されている。また既存の先進的技術としても10年度までにCO2冷媒ヒートポンプ給湯器を446〜520万台普及させる目標が掲げられている。ヒートポンプを軸に低炭素社会実現への展望を探った。
□主な記事□
・バイオエタノールとバイオマスタウン
・インタビュー●日本有機資源協会 専務理事 今井伸治氏
・バイオマスの活用事例●北海道鹿追町/東京都あきる野市
・グリーン・エナジー・パートナーシップの優秀賞など表彰
バイオマスのエネルギー利用については、一時、穀物価格の上昇をもたらすほど世界的に過熱したが、その後の金融不安に端を発した景気後退もあって、最近はあまり話題にならなくなっている。
バイオマスの利活用としては、大きく分けて 1.肥料・飼料・プラスチック・バイオ燃料などの製品としての利用 2.発電・熱利用などのエネルギーとしての利用―の2つの方法がある。
特にエネルギー利用については、カーボンニュートラルで国内資源を有効利用できることから、地球温暖化対策としても、またエネルギー安定供給確保の面からも重要だ。
バイオマスの利用はどの程度進んでいるのか。さらに利用を進めるにはどうしたらいいのか。現状や課題に注目した。
国内のバイオマス利活用は、02年に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」に基づいて進められている。同戦略は京都議定書の発効を受けて06年3月に見直しが行われ、現在は 1.国産バイオ燃料の利用促進 2.バイオマスタウン構築の加速化―を2つの柱として取り組みが行われている。
バイオエタノール
■バイオエタノール
バイオ燃料には主として 1.バイオエタノール 2.バイオディーゼル燃料(BDF) 3.木質固形燃料 4.バイオガスの4種類があるが、中でも生産と利用の拡大が期待されているのがガソリン代替となるバイオエタノールである。
バイオエタノールは、サトウキビやテンサイなどの「糖質原料」、コメやトウモロコシなどの「デンプン質原料」、稲わらや間伐材などの「セルロース系原料」からつくられる。
製造方法は基本的に酒をつくるのと同じだ。糖質原料の場合は、原料から糖分を抽出し酵母で発酵させ、蒸留・脱水により濃度99.5%以上の無水エタノールにする。これに対し、デンプン質原料とセルロース系原料では、発酵の前に粉砕・糖化というプロセスが加わることになる。
バイオエタノールはガソリンと直接混合する方式と、ETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)にしてガソリンに混合する方式の2種類がある。
ETBEはバイオエタノールと、石油を製造する過程で副産物として得られるイソブテンからつくられるもので、日本をはじめフランス、ドイツ、スペインなどが採用している。
一方、直接混合方式はブラジル、米国、スウェーデンなどが使っている。
日本でETBE方式が採用されているのは、京都議定書目標達成計画で示された、2010年度までにバイオエタノールを含む輸送用バイオマス燃料を原油換算で50万キロリットル導入するという目標のうち、21万キロリットルを分担することになった石油業界が条件として提示したためだ。
石油業界はその理由として、ガソリンを全国的に大量供給する立場では、物流・品質・環境の3つの点でバイオエタノールをそのまま使うのは難しいからだとしている。
例えば物流については、エタノールは水を吸収するので、直接混合だと燃料の品質が劣化するという問題が生じるが、ETBEはガソリンと完全に混合できるので、そうした問題は起きないためだという。
■国産化
石油業界が現在、使用しているバイオエタノールは海外から輸入しているものだ。これに対し、国内ではこれまで小規模な研究や実証事業しか行われてなく、全国で生産されているバイオエタノールの量は、農林水産省によれば昨年3月時点で約90キロリットル程度に留まっている。
このため、バイオマス日本総合戦略の見直しでも国産バイオ燃料の利用促進を挙げ、生産拡大と利活用の加速化に向けた様々な取り組みが始まっている。
その1つが農林水産省の「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」で、北海道バイオエタノール(北海道清水町)、オエノンホールディングス(苫小牧市)、JA全農(新潟市)の3事業がスタートしたところだ。
このうち、北海道バイオエタノールは、JAグループ北海道が中心となり、北海道電力や北海道ガス、トヨタ自動車北海道など、20の企業・団体が出資して設立した。
ホクレン十勝清水製糖工場内に設けたプラントで、余剰テンサイ(ビート)と規格外小麦を原料に、年間1万5千キロリットルのバイオエタノールを製造。石油業界がバイオエタノールの調達を行うために設立したバイオマス燃料供給に、ETBEの原料として全量を販売することになっている。
プラントは3月に完成し4月から試験製造を始め、今秋から本格操業となる。
別の取り組みとしては、やはり農水省の「ソフトセルロース利活用技術確立事業」がある。
これは、稲わらなどのソフトセルロース系原料の収集運搬や、エタノールを効率的に製造する技術の確立を目的に昨年度から始まったもので、北海道ソフトセルロース利活用プロジェクト、秋田県ソフトセルロース利活用モデル地区、兵庫県ソフトセルロース利活用プロジェクトの3件がある。
このうち、秋田県農業公社と川崎重工グループのカワサキプラントシステムズが実施主体の、秋田県ソフトセルロース利活用モデル地区は、日本有数の稲作地帯である秋田県大潟村の稲わらと籾殻を原料として、収集運搬実証・バイオ燃料製造・走行実証を行うものだ。
バイオエタノールの製造プラントは同県潟上市の昭和工業団地内に建設し、製造規模は1日200リットル。年間最大製造量は22.5キロリットルの見込みだ。
作ったバイオエタノールは大潟村でE10(直接10%混合)などにより走行実験を行い、副産物や発酵残渣などの肥料や飼料としての利用実証を行う計画もある。
農水省の試算では、こうした取り組みにより2011年に5万キロリットル、2030年頃には600万キロリットルの生産が可能と見込まれている。
■BDF
バイオエタノール以外のバイオ燃料のうち、BDFは軽油の代替燃料として使われるものだ。
製造には、菜種油やヒマワリ油、大豆油、パーム油など油糧作物から直接製造する方法と、食用油として使ってから回収して製造する方法の2つがある。
いずれにせよ、工業プロセスとして完成し、品質の確保と安価な製造が可能なアルカリ触媒法が主流となっている。
BDFの生産が盛んなEUでは菜種油やヒマワリ油から直接製造しているが、日本ではコスト面から廃食用油を使うのが一般的だ。
国内のBDFの製造・利用は自治体やNPO、民間企業などを中心に進められており、08年3月時点の農水省の推計では、全国で約1万キロリットルが生産された。
一例を挙げると、京都市では年間1500キロリットル程度を製造し、220台のごみ収集車でB100(100%BDF)、95台のバスでB20として利用している。
また地域の休耕田や転作田で菜の花を栽培し、菜種油を作って食用にした後、回収してBDFを作る「菜の花プロジェクト」も全国約120カ所で行われている。
■木質固形燃料
間伐材や林地残材、製材工場から出る端材などの木質バイオマスは、チップとして火力発電所やボイラーの燃料としても使われているが、木質固形燃料と言った場合は、特に微粉化して乾燥・圧縮し、円筒状に成形したペレットを差す。
木材の成分であるリグニンを熱で溶かして固めるため、接着剤が要らない上に、ペレットは薪などに比べて熱効率に優れているという特長がある。
生産量は毎年増加しており、林野庁によると、06年度末で全国で約2万5千トンが生産された。
最近は効率の良いペレットストーブが開発されていることや、一時、原油価格が高騰したことなどもあって、ペレットストーブでの利用が増加する傾向にある。
一方、バイオマスからのガスの製造には、家畜排泄物や食品廃棄物をメタン発酵させてガス化する方法と、木質バイオマスを無酸素状態で蒸し焼きにしてガス化する方法の2通りがある。
このうち、食品廃棄物をメタン発酵させて発生したガスを燃料として発電している例としては、東京のバイオエナジーがある。
同社は首都圏から収集した食品廃棄物を365日24時間体制で受け入れ、メタン発酵させたガスを燃料電池とガスエンジンを組み合わせたコージェネレーションシステムで発電し、その大半を売電するという計画により事業を行っている。
一方、家畜排泄物をメタン発酵する例では、発電した電力を施設で利用し、残った消化液も畑などに還元するなどして有効利用を図っている。
■バイオマスタウン
バイオマスタウン構想とは、地区(基本的には市町村)が地元にあるバイオマスの種類と量を調べ、それをどう利用するかという構想のことだ。
地区で構想書を作成して地方農政局に提出すると、バイオマス・ニッポン総合戦略会議(内閣府、農林水産省、経済産業省など1府6省で構成)が構想内容を検討。基準に合致していれば公表となる。
公表の基準は 1.廃棄物系バイオマスの90%以上または未利用バイオマスの40%以上の利用に向けた総合的な利活用 2.関係者の協力による安定的で適正な利用 3.関係法令の順守 4.安全の確保―の4点だ。
バイオマスタウンになることのメリットとしては、新たな産業や雇用の創出、エネルギーや素材の供給などによる地域の活性化、地球温暖化防止への貢献、循環型社会への移行の促進―などが挙げられている。
施設を整備する際には、地域バイオマス利活用交付金など、国の支援を受けることができるというメリットもある。
5月末時点で公表された地区の数は213に上っているが、バイオマス・ニッポン総合戦略では、2010年までに300地区の構築を目指していることから、国はバイオマスタウン加速化戦略を策定して取り組みを強化している。
東京電力
□主な記事□
・8火力結ぶネットワークが完成
・インタビュー●東扇島火力発電所 所長 荒木正邦氏/富津火力発電所 所長 石田昌幸氏
・LNG安定供給確保への取り組み
・原産協会●原産年次大会を開催
東京電力がLNG供給の一層の信頼性向上と、柔軟で効率的なLNG火力発電所の運用を目指して建設を進めてきた東西連係ガス導管がこのほど完成し、運用を開始した。
千葉県にある5つのLNG火力発電所と、神奈川県にある3つのLNG火力発電所を結ぶこのLNG専用導管の建設に当たっては、東京湾の海底にトンネルを構築することから、世界でも例を見ない難工事となったが、最新の技術を取り入れることで課題を克服することができた。
この導管が完成したことで今後、同社のLNGの運用はどう変わるのか、また建設工事はどのようなものであったのか。東西連係ガス導管の意義と工事の概要などを、LNG安定供給確保への取り組みも含め紹介する。
□主な記事□
・風力発電をめぐる動きと展望
・インタビュー●日本風力発電協会 副代表理事 赤羽博夫氏/日本大学 生産工学部 准教授 長井浩氏
・風力発電の導入事例
・原子力学会●春の年会開催
新エネルギーの中で、太陽光発電が再び脚光を浴びる一方、影が薄くなっているのが風力発電だ。特にマンションの耐震設計偽装問題を受けて07年6月に施行された改正建築基準法の、高層建築物を対象とする安全性の強化が風車にも適用されることになったため建設が停滞。10年に300万キロワットを導入するという国の目標の達成はほぼ不可能になった。さらに建設適地の遍在や野鳥の衝突などの課題に加え、最近では低周波音による健康被害が訴えられるなど、風力発電を巡る環境が厳しくなっている。
ここまで順調に導入が拡大してきた風力発電だが、今後も国内で普及を進めていくには様々な課題をクリアする必要があり、今は転換期にあると言えるだろう。
補助金の申請件数などから、2010年度までに300万キロワットという国の風力発電の導入目標の達成は、ぎりぎり可能ではないかと見られていたが、改正建築基準法の適用による建設の停滞などによって累積導入量は08年末で188万キロワット(速報値)に留まり、目標達成は覚束なくなった。さらに、普及が進むのに伴って様々な課題が生じ、今後の導入拡大に暗雲が垂れ込めている。しかし、風力発電にはライフサイクルアセスメントのCO2排出量評価で原子力や太陽光に比べが少ないメリットもあり、低炭素社会を構築する上で風力発電を活用する方法を探ることが必要だろう。
●改正建築基準法
改正建築基準法では、大型風車に対し超高層建築物と同等の安全性が求められ、工作物の扱いから建築物扱いになり、確認審査と大臣認定を受けることが適用されることになった。
これにより、建設するための申請手続きが繁雑になった上、高さが60メートルを超える風車については、JIS(日本工業規格)またはJIS基準相当を証明した材料を使わなければならなくなり、そうでないもの、例えば外国製の風車は認証材料での製造が必要になった。
また風車の構造計算においても風速や地震に対する基準が厳しくなり、大地震に耐えられるような構造とするために、地盤調査を行い風車1本1本について構造計算を行わなければならなくなった。
昨年、金融危機が発生して世界的にプロジェクトが中止・延期になるまでは高い伸び率で世界市場が拡大し、風車が品薄になっていたところに、法律の施行後、国土交通省などが効率的な運用を探って半年ほど施行錯誤を行ったことが重なって、国内での風力発電の導入が遅れる結果となったという。
ただし、最近はスムーズに認証が行われるようになっている上、過去に導入された海外の風車でトラブルがあったこともあり、改正建築基準法の適用が日本の風況に合った風車の開発・導入を促すことになったと評価する見方もある。
●陸上・洋上風力
長い目で見た場合、日本の風力発電導入拡大にとって、より重要な問題は、風況の良い場所の遍在やバードストライク(鳥の衝突)・騒音などの周辺環境への影響、日本特有の気象条件に適合した風車の開発などである。
風況については、日本では風速が6メートル以上の風力発電に向いた土地が国土の20%程度しかなく、さらに標高や住居などを考慮すると数%しかなくなる。しかも、そうした土地は北海道・東北・九州に多くあることから、電力系統への連系が課題となっている。
その対策として蓄電池を設置する事例も見られるようになっているが、コスト高になることや系統の受入量に制限があることから、抜本的な解決になっていないのが現状だ。
また開発の適地ということでは、陸上は限界があるため、今後は洋上への設置が検討されている。
洋上風力については、遠浅の海が続くデンマークやドイツではすでにかなりの規模で建設されているが、遠浅の海岸が少ない日本では、港湾に設置するのも一つの方法だ。
例えば海上輸送の拠点に位置づけられている重要港湾は全国に126、漁港に至っては約3千あることから、こうした場所で風況の良いところに設置すれば、それなりに導入が進むことになる。
実際、港湾については北海道から沖縄までの全国18カ所に66基がすでに設置されており(06年3月末現在)、漁港についても茨城県波崎漁港で設置事例がある。
港湾に設置するメリットは、建設しやすく送電も容易で、工事費が安く抑えられることだ。
これに対し、沖合に出れば風況はよくなるものの、建設費がかかることや送電線の敷設、漁業権への抵触という問題があり、現時点では実現は難しそうだ。
ただ、このタイプの風力の研究も行われており、資源エネルギー庁では実証可能性調査として6件を採択して研究を進めている。
●周辺への影響
周辺環境への影響のうちバードストライクについては、環境省が昨年度から3年間の予定で調査・研究を行っている。
ドイツでは自然保護連盟が野鳥の生息地と風車の与える影響などを調べた上で、風車を積極的に建設してよい場所と、影響する場合は代替案を提示し協力している。
日本でも日本大学生産工学部の長井浩准教授の研究室がこうしたデータの情報化を行うなど、野鳥との共生を目指した取り組みが進められている。
また、低周波音(通常は人間の耳では聞こえない100ヘルツ以下の音波)あるいは騒音の問題については、明らかに風車の設置場所が民家に近過ぎて騒音問題を引き起こしている例を除くと、低周波音によるとされている被害の実情についてはっきりしないところがある。
そこで環境省では現在、風力発電に関する騒音と低周波音の調査・検討を行っているところだ。
日本の気象条件は欧州と異なるにも関わらず、当初は欧州製の風車をそのまま持ち込んだことから、台風による倒壊や冬季雷の事故などが発生した。
最近では、対策が講じられているものの、より積極的に日本型風車を開発しようということで、NEDOがガイドラインの取りまとめを行い、昨年6月に発表した。
同ガイドラインでは、強風・乱流と雷に関する実態調査や対応策などを記載しており、例えば強風については、羽根が水平になって風を受け流すような仕組みになっているにも関わらず、断電して機能せずに壊れることがあっため、これを防ぐため蓄電池で電源を確保するなどの対策が示されている。
このガイドラインの強風に関する部分は、アジアのモンスーン地帯で風力発電を建設する際の参考にもなることから、国際貢献という面での活用も期待されている。
●導入見込み
現在、世界では1億2100万キロワット(08年末)の風力発電が導入され、米国のように、30年に電力需要の20%を風力発電で賄えるという数値を掲げている国もある。
日本では10年の300万キロワット以降の目標は設定されておらず、長期エネルギー需給見通しで30年に660万キロワットという数字が示されているだけだ。
これに対し、日本風力発電協会では陸上の適地の半分と洋上の約1割に設置すれば8100万キロワット導入可能という数字を示しているが、系統連系の問題もあるため実現は難しいだろう。
一方、電気事業連合会では系統が今のままでも500万キロワットは導入可能との見解を示しており、300万キロワット達成後は当面、これが導入見込み量となりそうだ。
電気記念日特集
□主な記事□
・オール電化の現状と展開
・インタビュー●コロナ 住設関東営業部 部長 長谷川吉和氏/東京電力 営業部 生活エネルギーセンター 賃貸住宅グループ マネージャー 草刈和俊氏
・ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エレクトリック2008
・東京電力●川崎火力1号系列が全運開
3月25日は「電気記念日」。1878年(明治11年)のこの日、東京・虎ノ門にあった工部大学校(東京大学工学部の前身)で、日本最初の電気灯がともされた。以来、電気は我々の生活に浸透し、今やオール電化が広く普及するようになっている。
オール電化には様々な特長があるが、その一つが低炭素社会に寄与すること。
例えば「低炭素社会づくり計画」では、2020年をめどに太陽光や原子力などの「ゼロ・エミッション電源」を、現行の約40%から50%以上とする目標が示されている。
オール電化は原子力が主体の夜間電力を活用するうえ、太陽光発電を設置して昼間の電力を賄うことにすれば、この目標達成に貢献することになる。
オール電化の現状などを探った。
オール電化住宅の普及は着実に進んでおり、今や全国の普及件数は285万戸に上っている。オール電化とはキッチン・給湯・冷暖房など、家庭で使うすべてのエネルギーを電気で賄う住宅のこと。特に給湯でエネルギー効率の高いエコキュートを使えば、低炭素社会づくりに大きく貢献することが出来るだけでなくランニングコストの低減も可能だ。さらに太陽光発電と組み合わせれば、さらなる効果が見込めるだろう。
●エコキュート
エコキュートは冷媒に代替フロンではなく、自然冷媒(CO2)を使ったヒートポンプ式の給湯システムである。
COP(エネルギー効率)が約3、すなわち投入したエネルギーの約3倍のエネルギーが得られることから省エネ性が高く、家庭で消費するエネルギーの約3分の1を占める給湯分野のCO2排出削減に貢献するシステムだ。
エコキュートは01年に世界で初めて商品化され、その後、容量や大きさ、デザインなど様々な特長を持つ機器が製品化されたことにより、07年9月に累計出荷台数が100万台を突破。
その約1年後の昨年10月末には、累計出荷台数が150万台を突破するなど、急速に普及が進んでいる(電気事業連合会、日本冷凍空調工業会、ヒートポンプ・蓄熱センター調べ)。
一例を挙げれば、関西電力・東京電力に続き昨年12月末にオール電化住宅が累計で50万戸を突破した九州電力管内では、今年度の電気給湯機の設置台数に占めるエコキュートの割合が12月末で6割以上を占めるまでになっている。
電事連によると、エコキュート150万台によるCO2排出量削減効果は、CO2換算で年間約90万トンになり、これは東京23区の約4倍の面積(約2667平方キロ)の森林が吸収する量に相当するという。
電事連は低炭素社会の実現に向けた電気事業の取り組みとして、20年までにエコキュートを1千万台普及させることを目指している。
また、国が昨年7月に策定した「低炭素社会づくり行動計画」でも、10年度までにCO2冷媒ヒートポンプ給湯機器を446万〜520万台普及させることが目標として示されており、国は設置費用の一部を補助する導入支援策を講じている。
このように日本では官民を挙げて普及拡大を図っているが、欧州でもヒートポンプを再生可能エネルギーとして政策的に推進する動きが盛んになっている。
例えば、2020年までにエネルギー消費全体に占める再生可能エネルギーの割合を20%とする目標を設定した欧州委員会では、地中熱ヒートポンプに加え、一定以上の効率がある空気熱ヒートポンプ(すなわちエコキュートのような機器)についても、投入量を上回る部分を再生可能エネルギーとする方針を示している。
●太陽光発電
エコキュートは発電の過程でCO2を排出しない原子力発電がメインの夜間電力を使って湯を沸かして昼間使うことができるが、家電製品については、現時点では夜間に蓄えた電気を昼間使うことは出来ない。
そこで、昼間に使用する電気をより省CO2型にするものとして期待されているのが太陽光発電である。
日本は04年まで太陽光発電の世界一の導入国であったが、欧州などで太陽光発電で作った電気を固定価格で買い取る制度を導入したことから普及が進み、特にドイツでは買取価格を大幅に引き上げたことで05年に世界一の座を日本から奪っている。
太陽光発電は技術面でも日本が世界をリードしてきた分野であり、しかもエコキュートなどと並んで家庭における省CO2に貢献する機器であることから、再び普及を加速させるため、国は住宅用太陽光発電導入補助を1月から開始した。
これは一般住宅への太陽光発電設置者に対し、太陽電池モジュールの最大出力1キロワット当たり7万円の補助を行うものだ。したがって、3.5キロワットのシステムの場合は24万5千円の補助が受けられることになる。
今年度(1月13日〜3月31日)は総額90億円の補助金により3万5千件程度の補助件数を想定しており、目標に達しない場合、予算は09年度に繰り越すことになっている。
太陽光発電については、低炭素社会づくり計画で20年に現状の10倍、30年には40倍とする目標を掲げる一方、環境省の検討会が30年に55倍まで拡大させる方策を提示。こうした流れを受けて、国は電力会社に太陽光発電の余剰電力を一定価格で買い取ることを義務付ける制度の、10年度からの実施を検討することを表明している。
オール電化住宅と太陽光発電を組み合わせると、CO2の削減に一層効果があるだけでなく、ランニングコストの低減にもなる。
オール電化住宅の一般的な電気料金メニューでは夜間の電気料金が大幅に安くなる一方、昼間の電気料金が若干割高になるという仕組みになっているが、太陽光発電を使えば、昼間の時間帯に売電できるので割安になるからだ。
●自動車も
オール電化住宅では、キッチンでIHクッキングヒーター、給湯にはエコキュートや電気温水器、冷暖房は電気式床暖房や蓄熱式電気暖房器、省エネエアコン、全館空調システムなどを使用する。
IHクッキングヒーターは、コイルに電流を流して発生させる磁力線の力で鍋自体を発熱させる調理器。かつて使われていた火力の弱い電熱コンロと異なり、強力な火力を得ることが出来る。
また、安全機能も充実している上に、手入れが簡単でキッチンを清潔に保てること、キッチン周りの温度上昇や体温上昇を抑えることなどが特長だ。
一般家庭では給湯とキッチンが電化されていないだけで、あとは電気というケースが大半だ。したがって、これらを電化にすればオール電化になるわけで、最近は新築だけでなく、既築住宅をリフォームし、エコキュートとIHクッキングヒーターに替えてオール電化とする住宅も増えている。
例えば、四国電力管内では06年度から既築住宅の電化リフォームが新築住宅を上回っており、今年度は昨年4〜10月でオール電化採用戸数の約66%が既築となっている。
さらに、家庭のオール電化と言った場合、自動車の電化も考えられる。電気自動車やプラグインハイブリッド自動車は運輸部門の低炭素化に貢献する車として期待されているが、こうした車が普及するようになると、自宅で充電することになる。
すでに電気自動車用コンセントを駐車場に設置したオール電化マンションも造られるようになっている。
このように、オール電化住宅に太陽光発電と電気自動車やプラグインハイブリッド車を組み合わせることが、より環境にやさしい暮らしと言えるのかもしれない。
省エネ月間特集
□主な記事□
・インタビュー●省エネルギーセンター 専務理事 奥村和夫氏
・省エネの実践例 ワタミグループ/マルハン
・九州電力●全電化が50万戸突破
・ガス大手など6社●家庭用燃料電池5月に発売
経済産業省がまとめた07年度のエネルギー需給実績(速報)によれば、同年度の最終エネルギー消費は前年度に比べマイナス0.7%となり、3年連続で減少した。
これは産業部門のエネルギー消費が対前年度比で0.9%と若干増加する一方、民生部門は業務部門のエネルギー効率の改善などにより2.2%の減少、また01年度をピークに一貫して減少傾向にある運輸部門も1.9%の減少となったためだ。さらに現在の経済状況から考えると08年度のエネルギー消費は一層減少する可能性がある。
ただ長期的に見れば、50年にCO2排出量を半減するという目標を達成するには、さらに省エネを追求することが必要だ。省エネ月間を機に改めて省エネに注目した。
省エネが進んでいる産業部門に比べると、民生部門(業務・家庭)はまだ省エネの余地がかなりあると見られている。そのため昨年、省エネ法が改正され、民生部門のうち業務部門の対策として、これまでの事業所単位ではなく、企業単位で対策を講じることが義務付けられた。さらに低炭素社会の実現を目指し、こうした個々の取り組みに加え、都市構造などのシステムを見直すことで、運輸部門を含め一層の省エネを図るという考え方も示されるようになっている。
■従来の省エネ法
従来の省エネ法の対象は大規模工場だったが、昨年5月30日に交付された改正省エネ法では、事業者単位のエネルギー管理を義務付けることになった。
また一定の要件を満たすフランチャイズチェーンについても、チェーン全体を一体として捉え、事業者単位の規制と同様の措置を求めることになった。
具体的には、改正前はエネルギーを原油換算で年間1500キロリットル以上使用する工場・事業場は、年間のエネルギー使用量を工場・事業場ごとに国に届け出て、エネルギー管理指定工場の指定を受けていた。
さらに3千キロリットル以上を「第一種エネルギー管理指定工場」、1500キロリットル〜3千キロリットルを「第二種エネルギー管理指定工場」とし、それぞれエネルギー管理者やエネルギー管理員の選任、エネルギー使用状況などの定期報告などが義務付けられていた。
■改正省エネ法
今回の改正では、この指定に加えて、企業単位で年間のエネルギー使用量の合計が1500キロリットル以上であれば、エネルギー使用量を届け出て「特定事業者」の指定を受けなければならなくなった。
またフランチャイズチェーンについては、フランチャイズ加盟店を含む企業全体で1500キロリットル以上であれば、本部が国に届け出て「特定連鎖化事業者」の指定を受けることになった。
対象となりそうな事業者は、今年4月からの1年間で企業全体のエネルギー使用量を把握し、1500キロリットル以上の場合は各経済産業局に届け出ることになる。
その目安として小売店舗なら約3万平方メートル以上、コンビニエンスストアは30〜40店舗以上、ファーストフード店は25店舗以上などの数字が示されている。
特定事業者または特定連鎖化事業者に指定されると、役員クラスの「エネルギー管理統括者」と、それを実務面で補佐する「エネルギー管理企画推進者」をそれぞれ1名選任するとともに、定期報告と中期計画書を提出することになる。万一届け出なかったり、虚偽の報告をした場合には50万円以下の罰金が課されることになっている。
■低炭素型社会
こうした産業部門や業務部門の取り組みのほか、家庭部門での省エネ家電の普及、運輸部門での自動車の燃費向上や次世代車の開発など、各分野で省エネに関する様々な取り組みが行われているが、さらに低炭素社会を実現するには、社会システム全体を変えていくことが必要だとする考え方が示されるようになった。
これには「都市」「移動」「農村漁村」「住宅・建築物」など様々な面で低炭素化を図る必要があるが、その具体策として都市を例に挙げると、中心市街地の整備・活性化、LRT(次世代型路面電車システム)・バスなど公共交通の走行空間や徒歩・自転車による移動環境などの整備、エネルギーの面的利用、都市内物流の効率化、住宅・建築物における省エネ―などが考えられている。
新春鼎談
□主な記事□
・新春鼎談●日本エレクトロヒートセンター 会長 片倉百樹氏/東京大学生産技術研究所 教授 堤敦司氏/産業技術総合研究所 理事 矢部彰氏
・「蒸気レス」への取り組み●日野自動車羽村工場
・拡大するIH技術の利用法
・J−PARC(大強度陽子加速器施設)が運用開始
産業分野で電気エネルギーを利用する動きが広がっている。効率の良い産業用の電化製品が次々に開発される一方、特に設備更新を機にエネルギーの使い方が見直されるようになっており、その結果、電化製品が選ばれるようになっているのだという。
低炭素社会に向けての取り組みや、生産工程における一層の効率的なエネルギー利用が求められる中で、日本の産業はどのように変わっていくべきなのか。それに電気エネルギーはどう貢献できるのか。日本エレクトロヒートセンター会長の片倉百樹氏の司会兼務により、東京大学生産技術研究所教授の堤敦司氏、産業総合研究所理事の矢部彰氏に話し合ってもらった。
弊紙「燦」に関するお問い合わせは、にメールしてください。